AI(人工知能)や、DX(デジタルトランスフォーメーション)、データドリブン経営、IoT(Internet of Things)など、現代のキーワードから読み取れるように、ITの活用はこれまでの「システム・アプリケーションの導入・運用」といったことから「データの利活用・分析」といった時代に大きく変わってきています。

そうした中で、「うちの会社も早くAIの導入やデジタルトランスフォーメーションを実現させなければ」と考える企業も多くなっていると思います。

しかし、データの利活用や分析には、必ず通る必要がある「道」というものが存在しています。

その「道」を順番通りに通っていくことによって、高度なデータ活用による経営というものが実現できます。

今回は、その「道」である「データ利活用の発展レベル」というモデルをご紹介し、自社のデータ利活用は現在どのフェーズにあって、どうすれば次のフェーズに進めるのかということを解説していきます。

データ利活用の発展レベル

データ利活用は、下の図にあるように、レベル1からレベル3までの3段階で発展していくとされています。

「経営のためのデータマネジメント入門」

喜田 昌樹 (編集), 一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会 ビジネスデータ研究会 (編集)

P25 図表1-5 をもとに筆者が作成。

現在注目を集めている、AIやDX、データドリブン経営といったことを実現するのは最も上位のレベルである「レベル3」ということになります。

したがって、レベル1やレベル2がきちんと実施されていなければ、レベル3には到達できない、ということがこの概念の表す意味となります。

データの利活用や分析といったことは、基本的には「トップダウン」で実施していくほうが上手くいきます。

なぜなら、データ利活用や分析は不確実性が伴うことが多く、費用対効果も明確に定義することが難しいことから、「やってみなければ分からない」という側面が強いからです。

とはいえ、日本の企業にはそこまで強いリーダーシップでデータ利活用を推進できる経営者は多くはないと思います。

現代のビジネスでは「トップからの指示がなければ動かない」という組織ではあっという間に競合に負けて市場からの撤退を余儀なくされてしまいます。

そこで、「経営者がその気になるまで待つのではなく、もっと現場レベルでも進めていけることはないのか」というニーズに合わせて考えられたのが、この「データ利活用の発展レベル」なのです。

なお、上記の図では、それぞれのデータ発展レベルにおいて、

・どのような分析手法を使っていくのか
・どのようなビジネスフレームワークが使えるか


ということを筆者がオリジナルで付け加えてみました。

分析手法にしてもフレームワークにしても、あくまで一例ですので、「このレベルではかならずこれをやらなければならない」ということではありませんので、あくまで参考程度に見て頂ければと思います。

例えば、フレームワークに関しては「レベル1」の段階で「システムシンキング」を活用して事業ごとの利害関係やビジネスモデルといったことを整理してもよいですし、レベル3の段階でビッグデータ分析から定量的な情報を得た上で、自社のバリューチェーンを見直す、AIによって最適化を目指す、ということに活用してもよいと思います。

しかし、レベル1の段階でいきなり機械学習やディープラーニングといった技術を使っていくことはあまり現実的ではありませんので、レベル1の段階であれば、まずはレベル2でのBI導入を目指すといったことが適切です。

以下では、それぞれのレベルでの意味や実際にやるべきことを解説していきます。

レベル1(業務とマネジメントの遂行)

レベル1とは

レベル1の段階では、データ分析以前の問題として、「自社は何をしている企業なのか? 業務はきちんと行われているのか?」ということを認識、確認していく段階です。業務は要件通りに行われているのか、ルーティンワーク的な作業が適切に行われるようなマネジメントができているのか、といったことを確認するイメージです。

この段階ではデータ利活用のためのデータ連携やデータ統合といったことが必要ないため、データに対しての価値認識が低かったり、データ管理の必要性を感じない場合が多いですが、レベル2、レベル3とステップアップしていくためには、ここでしっかりと業務間のデータ連携やマスタ整備などをしておく必要があります。

社内の部署ごとに様々なアプリケーションを開発したり運用したりしていると部署間でのデータ連携ができなくなり、のちのちにデータを全社横断的に活用したいときにうまくいかなくなります。

データ自体をアプリケーションの内部に持つのではなく、データ管理だけを独立して行うシステムなどを導入すれば解決できる場合があります。

ルーティンワークの効率化といえば、このステップで活躍するのは「RPA (Robotic Process Automation /ロボティック・プロセス・オートメーション)」が挙げられます。

日本企業の場合は経営層がこのレベル1に対して優先的に改革を行ったり、投資をしたりすることにあまり積極的ではない場合が多いため、社内の現場リーダーや課長クラスの人材がIT部門などを巻き込んで業務効率化を推進していくことが必要になる場合が多いでしょう。

データ分析のポイント

データ分析に関しては全く手をつけなくていいかと言えばそういうわけではなく、「現状認識」は必要になります。

どんなに小さな企業であっても、
・昨年と比べて売上は伸びたのか減ったのか
・現在の在庫はどれくらいあるのか
・会社の財務状況はどうなっているのか


といったことは認識しておかなければビジネスになりませんし、Excelに打ち込んである数字を並べてみてグラフを作る程度であれば、データサイエンティストなどが社内にいなくても自社の社員で十分に対応可能です。

活用できるフレームワーク

レベル1の段階で使えるフレームワークとしては、
・3M (ムリ・ムダ・ムラの頭文字)
・バリューチェーン
・VRIO(ヴリオ/ 企業の内在価値を探る手法)


などが活用できます。

まずはあまり細かいデータに捉われずに、ざっくりと自社の置かれている環境やビジネスプロセスなどを洗い出してみることが、後々に活きてきます。

レベル2(分析と認識)

レベル2とは

レベル1では、簡単に言うと「自社は何をやっているのかを知る」という段階でしたが、レベル2ではいよいよ本格的なデータ分析を実施していきます。

ここで言うデータ分析とは、「お客さんのことを知る」という意味です。

・誰が自社にとっての優良な顧客なのか
・いつ、どこで、だれが、なにを、どれくらい買ってくれているのか


といったことを蓄積された購買データやトランザクションデータ、Webアクセスのデータといったものを活用して分析していきます。

ここでのデータ分析は第一に、「過去の事実を客観的に報告する」ということが求められます。

今あるデータ、というものは基本的には「過去に起こった出来事が数字や文字として記録されている」ということです。

データの量や種類も多くなってくるため、Excelなどの表計算ソフトだけでは処理ができなくなってきます。

迅速に必要な分析を実施するために、BI(Business Intelligence / ビジネスインテリジェンス)のツールを導入したり、BI用の分析マートを作成するDWH(Data WareHouse / データウェアハウス)といったITシステムが必要になってきます。

次第に自社のスタッフだけでは分析業務が回らなくなってくる段階でもあるため、アナリストやデータサイエンティスト、データエンジニアといった人材を採用あるいは外注するといったことも検討する段階です。

データ分析のポイント

レベル2でのデータ分析のポイントは、

・どのような切り口(軸)で分析をするか
・分析した結果を「見える化(可視化)」する
・分析した結果、なぜそうなっているのかを考える

ということがポイントになります。

活用できる手法としては

・記述統計(データの分布やばらつき、相関関係を確認する)
・目的型データ分析(回帰分析、コンジョイント分析等)
・探索型データ分析(因子分析、クラスタリング等)

といったことが考えられます。

それぞれの手法については、ここでは詳しくは述べませんが、データを分析する際には「記述統計」の手法である、ヒストグラムや標準偏差といったものを活用して、データのばらつきを確認することが非常に大切です。

例えば、スーパーマーケットやドラッグストアといった小売店のID-POSデータを分析する場合などに、「HML分析」といって、顧客をヘビー・ミドル・ライトといった具合に分類してマーケティングの打ち手を考えるといったことがありますが、このデータの中には一般の買い物客のデータだけではなく、近くの小料理屋や居酒屋といった「業務店」が食材などを購入しているデータも含まれている場合があります。

こうした「業務店」は大量に食材や飲料を買うため、単純な売上だけでみると一般の顧客とはかけ離れた、「超優良顧客」ということになってしまいます。

しかし、本来であればこうした「業務店」のデータは除外したいはずです。

「一般顧客」か「業務店」か、ということを判別できるデータがないのであれば、記述統計のヒストグラムや散布図といった手法を使って、「明らかに飛びぬけている」と思われるデータにあたりをつけて、それを除外して分析する、ということが可能です。

もちろん、判別できるデータが元々ないのであれば完全に除外するということは難しくなりますが、「実は業務店にも安売りのダイレクトメールを送りまくってしまった」ということからは避けられる可能性があります。

データ分析においては「先に仮説を立てて検証する」ということも大切ですが、事前にデータの中身に関する情報がないのであれば、上記のような統計的な手法を活用して「データから仮説を立て、検証する」ということも大切です。

いわゆる「多変量解析」の手法である「目的型データ分析」や「探索型データ分析」といったものは、使いこなせれば大きな武器になりますが、解析にかけるためのデータの準備や、手法の選定、分析結果の解釈といったことが、それなりの経験がなければ難しく、「高度なことをやっている割には成果がパっとしない」ということになりがちです。

それよりもまずは、大量のデータが表している現状を「見える化」してなるべく活発な議論をしていく、ということ(BI)に注力をしたほうがよいでしょう。

BIをある程度やり尽くして社内のデータリテラシーや環境も整ってきたところで、「もっと精度の高い需要予測はできないか」とか、「様々な要素を踏まえた上で顧客を分類できないか」といったニーズが出てきたときに「多変量解析」の手法を使っていくことがよいでしょう。

活用できるフレームワーク

レベル2で活用できるフレームワークとしては、
・ロジックツリー
・RFM分析(Recency / Frequency / Monetary の3つの言葉の頭文字)
・PPM(Product Portfolio Management / プロダクトポートフォリオマネジメント)


などが考えられます。

データは様々な切り口で分析することが可能ですが、いきなりデータを触って分析をする前に、「ロジックツリー」を活用して「どんな切り口が考えられるか」ということを整理してみるとよいでしょう。

また、「RFM分析」は優良顧客を洗い出すためのフレームワークとして有名です。

「PPM」はボストンコンサルティンググループが発明したフレームワークとしてコンサルティング業界ではお馴染みのものですが、現在では単純に企業の売上高や商品ごとの出荷数といった財務的なデータからの「市場シェア」だけではなく、POSデータからリアルな購買データを分析して「商圏シェア」といった数字を出すことが可能です。

上記のフレームワークを活用して、
・データ分析のロジックの抜け漏れを防ぐ、アイデアを洗い出す
・優良顧客にあたりをつけてマーケティング施策の打ち手を考える
・マーケットでの自社(あるいは取引先)の状況をデータで表し、経営判断の材料にする


といったことが可能です。

レベル3(価値創造)

レベル3とは

レベル2で様々な切り口で実施したデータ分析のアウトプットを元にして、より高度なマネジメントや経営戦略、強固なビジネス優位性を確立していくフェーズです。「過去のデータを分析する」というレベルを超えて、データから将来を予測したり、全社横断的な業務プロセスの自動化などを、デジタル技術、AI、RPAといったことを組み合わせていきます。

ここではいかにデジタル技術を「価値創造」に繋げるか、ということがポイントになります。

デジタルトランスフォーメーションやデータドリブン経営、といったことは企業経営の目的ではなくあくまで手段です。

それらを通じて何を実現したいのかという、企業としての本質を問い、場合によってはビジネスモデルの大転換といったことも考えられます。

より様々なデータの種類や多くのデータを扱うことになるため、データ分析基盤の整備や、そもそものデータの品質の向上、データ分析関連(大量データの加工や機械学習等)のハイレベルなスキルが求められます。

データを扱う人材に関しては、ただ「分析をする」というレベルを超えて、ビジネスの価値を生みだすアウトプットを強く意識して業務を実施する必要があり、自社や得意先のビジネスモデルや市場動向、企業理念や経営目標、価値観、といったことも踏まえた分析力が求められます。

また、経営層も日々の目まぐるしい市場環境の先を読む力や、データを活用して経営改革を行っていくリーダーシップ、利害関係者とのデータ活用におけるWin-Winの交渉・構築など、非常に鋭い頭脳と熱意、コミュニケーションスキルが必要になります。

AIやRPAの導入は社内での反対勢力や投資対効果、法令順守といった点でも高度なリスク管理や説明責任が求められるため、相応な人材を揃えて推進していくことが必要です。

データ分析のポイント

レベル3でのデータ分析のポイントは、

・データ利活用、分析の目的を明確にする
・成し遂げたい目標や課題解決に対してデータを使う、という意識


ということがポイントになります。

レベル3の段階では、自社のデータだけではなく、オープンデータやソーシャルデータ、また取引先から購入するデータなど、外部から調達したデータが多くなっていきます。

そのため、データを活用する目的を見失うと、データの量だけが一方的に増えて、分析のためのコストが増え、価値創造まで繋げることが困難になります。

活用できる手法としては

・機械学習(可視化、予測、分類)
・ベイズ統計(与えられた情報から確率が高い真実を特定する)

といったことが考えられます。

これらの手法を使ってデータ分析を行うこと自体は難しいことではありませんが、分析用のデータセットの準備や、データの品質、分析結果の精度をどこまで許容してどのように解釈するか(事業価値化に繋げるか)という判断が非常に難しくなります。

データに抜け漏れが多くあったり、絶対量が足りなかったり、事業価値化につながるようなデータが手元にないような場合は、分析やAIの導入のハードルが上がります。

AIに関してPoC(Proof of Concept / 概念実証)止まりで終わってしまうケースが多いのは、戦略的な問題、費用的な問題、人材の問題、データの問題などが複雑に絡み合うためです。

データ利活用は通常の「システム開発」のように要件通りに進めることが難しく、不確実性が高いため、上記の問題を踏まえながらも粘り強く試行錯誤していくメンタルも重要です。

活用できるフレームワーク

レベル3で活用できるフレームワークとしては、

・AHP(Analytic Hierarchy Process / 階層分析法)
・4P(product/place/price/promotion の4つの言葉の頭文字)
・システムシンキング(Systems thinking)


などが考えられます。

AHP」とは「いくつかの選択肢の中から最もよいと思われる意思決定を行うプロセスをモデル化する」ということです。

例えば、「ビールを買いたい」と思ったときに、A社、B社、C社の商品があったとして、どれかを選ぶわけですが、選ばれる要因は何なのか、ということを定量的なデータと定性的なデータを組み合わせて図式化する方法です。

これは、顧客の購買行動に関する意思決定を明らかにしたいときだけではなく、自社の事業戦略としてどの案を採用するかといったことを意思決定する際にも活用できます。

4P」はマーケティングの参考書などにもよく登場するため、知名度が高いフレームワークですが、ビッグデータの分析結果を使ってこのフレームワークを埋めていくことが可能です。

従来の「4P」の使い方としては、セグメンテーションやターゲットをしっかりと決めてから、商品の機能や価格、プロモーションの方法を決める、といったやり方が定番でしたが、ビッグデータの分析によって商品の価格変動の規則性や、物流のボトルネック、コンバージョン率が高い広告とそうでない広告といったことを明らかにし、その上で「4P」に当てはめて、マーケティング戦略を常に改善するという使い方ができます。

高度成長期や人々の生活スタイルもある程度同じような時代であれば「セグメンテーション」や「ターゲッティング」といったことを最初の段階でしっかりと作りこんでマーケティングを行っていくことは有効でしたが、現代のビジネス環境では、セグメンテーションやターゲッティングをしても、実際にはそこに該当する顧客がほとんどいなかったり、ひとりひとりのニーズの多様化についていけない場合がありますが、ビッグデータの分析によってライフスタイルをいち早くキャッチし、先手の戦略を考えていく材料にすることができます。

システムシンキング」とは物事を「システム」として捉え(「ITシステム」とは違います)、そのシステムを創り出している要素同士の因果関係を図解化して、そのシステムの特徴把握やボトルネックの発見など、「本質的な問題解決」を目指すフレームワークです。

システムシンキング」には数値のような定量的なデータも、人々の心理といった数値としては測りにくいようなデータも入れて意思決定の材料にすることができます。

MECEやロジックツリーといった「クリティカル(ロジカル)シンキング」系のフレームワークでは、基本的に「要素にダブりがあってはならない」とされており、大項目から中項目、小項目といったように直線的に物事を分けていくことが特徴ですが、「システムシンキング」では「ループ図」というものを使って、物事の全体像を考えていきます。

自由度の高いフレームワークのため、同じ会社の同じ部署の人間が作成しても、人によってかなり違う図ができあがってしまうことがありますが(それはそれでよいのですが)、ビッグデータの分析によって客観的な要素や結果を入れることができれば、ビジネスの全体像を捉える精度が高くなり、意思決定の役に立ちます。

まとめ

今回は、「企業のデータ活用のレベル」として、「データ利活用の発展レベル」というものご紹介致しました。

この記事で言いたいこと

・データ発展には3つのレベルがある
・それぞれのレベルに適した分析手法やフレームワークがある
・レベルが上がるにつれて社外のデータを活用することが増える
・レベルが上がるにつれて、求められる人材の要件やスキルも上がる
・AIの前にまずはBIにトライして、社内のデータリテラシーを上げる
・データ活用はトップダウンが望ましが、ボトムアップでの推進も可能

データの利活用には「技術的に実現できるのかどうか?」ということも大切ですが、「企業経営に対してどけだけ貢献できるか」という視点が最も大切です。

従来のビジネスフレームワークは、「マーケット・リサーチ」的な手法でデータを集めて、集めたデータをもとに当てはめていくという使い方でしたが、ビッグデータの分析から得られた結果をはめ込んで市場理解や企業経営の戦略構築に繋げることができるようになりました。

ご興味のある方はぜひお気軽にご相談ください。