近年、様々な企業でデータを収集し、収集したデータを活用して新事業を開発したり、既存事業を高度化したりといった取り組みが盛んに行われています。

データを効果的に活用するには、データを活用するための戦略策定、データ収集・保管システムの構築、データ分析、人材育成など、やるべきことが多岐に渡ります。

そうした中で、スピード感を持ってデータ活用を成果に結びつけるため、データ活用を専門とする組織体制の構築を考えている経営者や担当者の方は多いのではないでしょうか。

今回は、データ活用のための組織体制に焦点を当て、ビジネスでデータ活用を推進するためにはどのような組織体制を整備すべきかを解説していきます。

この記事でわかること

✔ データ活用専門の部門が必要とされる理由が分かる
✔ データ活用部門に必要な機能や役割、人材が分かる
✔ データ活用部門を作る場合の、作り方のパターンが分かる

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データ活用を統括する部門が必要な理由

データを活用して新しい価値を生み出すため、製品・サービスを作り出す事業部門以外にも、さまざまなデータを収集、保管するシステムを作る「IT部門」、収集したデータを分析して、新たなビジネス戦略を提案する「データ分析部門」など、データ活用を統括するための組織を検討する機会が増えています。

そこで、データ活用を統括する部門の必要性を見ていきます。

理由1. 全社でデータ活用の方向性を合わせられる

複数の事業部門や部署が存在する企業の場合、部門ごとに異なるデータベースを作ったり、部門でコンサルタントと契約したり、分析ツールを導入したりなど、他部門との調整が不十分な状態でデータ活用を進めると、企業として統制がとれない状況に陥る可能性があります。

そのような状況になると、会社内でデータ活用の考え方がまちまちになる、無駄な投資が発生する、部門間の人の異動が難しくなるといったデメリットが生じがちです。

そこで、データ活用を統括できる「全社横断的な組織」を作ることで、データ活用を効率的に進められることが期待できます。

全社で同じシステムや分析ツールを導入すれば、社内におけるノウハウやナレッジが溜まりやすくなり、ライセンス料のボリュームディスカウントなども期待できます。

また、部署を異動してもシステムの使い方を一から覚える必要がないため人員配置の柔軟性が高まるでしょう。

このように、データ活用を統括する部門を作り、全社でデータ活用のベクトルを合わせると、より大きな成果につながることが期待できます。

理由2. データ活用について攻めと守りの体制を整備できる

データ活用と言うと、データを使ってより大きな成果を求めることに目が行きがちですが、攻めることだけでなく守ることにも目を向ける必要があります。

ここでの「攻め」とはデータ活用効果を最大化するための取り組みを指し、「守り」とはセキュリティ管理やデータガバナンスなどデータ活用によるリスクを最小化するための取り組みを指します。

近年では従業員の不正や、顧客のプライバシーにかかわる情報の流出など、企業の信用を大きく損ねるトラブルが発生するケースが増えてきており、「守り」に目を向けることも重要です。

全社的にデータ活用を統括する組織を作れば、収集したデータの保護を含めて一元管理でき、データ活用の成果最大化とリスク最小化の両立を図ることができます。

理由3. ガバナンスやプライバシーに配慮した情報管理体制が求められている

さて、ここで経営者に目を向けてみましょう。

経営者は善良な管理者としての注意義務を負っており、リスク管理体制の構築を行わなければなりませんが、この中には会社が収集したデータも含みます。

データの中でも特に消費者のプライバシーにかかわる情報の管理は、意図しない漏えいや不適切な利用がないよう細心の注意を払わなければならず、経営者は以下を実施してプライバシーガバナンスを整備する必要があります。

● プライバシーガバナンスに係る姿勢の明文化
● プライバシー保護責任者の指名
● プライバシーへの取組に対するリソース投入

経営者は後述する「CDO (Chief Digital Office: 最高デジタル責任者)」を任命するなど、データの適切な活用のためにリソースを適切に配分し、攻めだけでなく守りの体制も整備する責任を求められています。

データ活用部門に必要な機能・役割・人材

ここからは、データ活用の「攻め」と「守り」のために、統括組織にどのような機能や役割を与え、どのような人材を配置すべきか見ていきましょう。

データ活用部門に必要な「機能」と「役割」

まず、データ活用のための統括組織に必要な機能と役割を見ていきます。

データを管理する機能 (データマネジメント)

データ活用部門において、データをマネジメントする機能は、真っ先に付与されるべきものです。

経営において、資産と言えば「ヒト・モノ・カネ」と言われていますが、今や「データ」は「第4の資産」とも言われており、デジタルトランスフォーメーション(DX)時代の現在において「データ」は重要な役割を果たします。

データは他の3つの資源と同レベルで扱うべきであり、「財務」「人事」などと同様に「データ」を統括組織で管理することが必要となってきています。

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データ利用の環境整備 (データガバナンス)

データガバナンス」は、データ管理の実行を監督・サポートする機能で、上記の「データマネジメント」とは異なります。

企業として利用するデータを適切に管理するのが「データマネジメント」、社内でデータを利活用しやすい仕組みを整えたり、利活用のためのルール作り、ルールに沿った活動を監督するといったことが、「データガバナンス」の役割です。

※企業経営での一般的な「マネジメント」と「ガバナンス」の違いをイメージして頂ければ分かりやすいと思いますが、「マネジメント」は「経営資源を適切に管理し最適化すること」、「ガバナンス」は「社会のルールや法令、企業としてのルールを守って正しい行いをしていくこと」という意味合いになります。

「データ戦略」の構築

データを活用して新しい価値を生み出すには、情報資産を管理するために必要な技術、人員、プロセス、データ運用ルールなどの「データ戦略」を構築する必要があります。

具体的には、データの運用効率、データ運用プロセスの最適化、迅速な意思決定、収益源の増加、顧客満足度など、多岐に渡る事項を検討し、企業としてのデータ利活用のビジョンや方向性、目標を定めていきます

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データの分析 (データビジュアライゼーション・データサイエンスなど)

データを分析して企業としての現状を正確に理解することや、新たな知見を引き出すなどして、ビジネス課題の解決に繋げていくための役割が必要になります。

「データ」を「理解しやすく、判断しやすい」形に可視化していく取り組みのことを「ビジネスインテリジェンス(BI)」あるいは「データビジュアライゼーション」と呼んだりします。

また、統計学や機械学習といった考え方や理論を使ってデータ分析していくことを「データサイエンス」と呼びます。

以前は、与えられた問題やデータに基づいて分析結果を導く、つまり「問題を解く」ことが主な役割でしたが、最近では問題を解くだけでなく「問題を設定」したり、「分析結果をいかにビジネスの現場で使ってもらえるか」、といったことを考えていく役割も求められています。

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データ活用関連人材開発、育成

全社でデータ活用を進めていくには、全社員の「ITリテラシー」および「データリテラシー」の向上が必要です。

しかし、多くの企業ではIT部門の専門性を高めることは進めているものの、ITに深く関わっていない社員のリテラシーレベルの把握や、リテラシー向上には取組めていないのが実情です。

データ活用統括部門は、「データサイエンティスト」のような高度なスキルを有する人材だけでなく、基本的なIT・データリテラシーを有する人材の育成まで、全社を対象に体系的な人材育成計画を策定・実施することが求められます。

データ活用部門に必要な「人材」

データ活用を統括する組織を作り、組織の機能や役割を明確にできたら、今度はその組織にどのような人材を配置するかを考えなければなりません。

配置すべき人材の例をいくつか紹介します。

CDO(チーフ・デジタル/データ・オフィサー)

CDOとは「Chief Digital Officer: 最高デジタル責任者」のことを指します。あるいは、「Chief Data Officer: 最高データ責任者」の場合もあります。

DX白書 2021」によると、日本企業は米国企業に比べるとCDOを設置している割合が少なくなっており、データ活用に対する経営層の意識の差があると考えられています。

(出典:経済産業省「DX白書2021

データを自社の発展のために活用する際は、経営資源の配分について経営トップと対等に対話し、デジタル戦略やデータ戦略をリードするCDOの存在が必要不可欠です。

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データスチュアード

データスチュアード」とは、日本語に訳すと「データ管理責任者」のことを指します。

データ活用で重要となる「メタデータ」の作成・管理や、データを扱う「ルール作り」、「データガバナンス活動の実施」などが主な役割です。

上記の「CDO(最高データ責任者)」との違いは、「CDO」は企業のデータ活用やデジタル全般に幅広く関わって戦略策定やマネジメントをしていくのに対して、「データスチュアード」はあくまで「データガバナンス」や「データマネジメント」を検討・構築・運用していくことが主な職務であり、ビジネスの現場側の近くで業務をすることは少ないです。

よって、「CDO」は基本的には企業の中で1人の人間が担当しますが、「データスチュアード」は何名かの体制で運用する場合が多くなります。

データ活用において問題が起こったら、データスチュアードはCDOにその旨を速やかに報告します。

データストラテジスト

データストラテジスト」は、データを活用してビジネスや組織の課題を対処するための戦略を決め、それを普及・実行する責任を担います。

データ分析側とビジネス側の橋渡し役を期待されることが多いです。

上記の「CDO」がデータ戦略に深く関わることは当然ですが、「CDO」が描いている構想をより具体化して形を作り上げていくのが「データストラテジスト」になります。

データストラテジスト」は、「データ」に関する知識や経験があることはもちろんですが、企業の経営戦略や事業戦略、IT戦略などにも精通している必要があり、それらの戦略とデータ戦略を整合性のあるものにして作り上げていく能力が求められます。

プロジェクトマネジャー

データ活用の各プロジェクトにおいて、プロジェクト全体を捉えて問題・課題を発見し、その問題を解決するための戦略策定と、不確定な状況下でもプロジェクトをマネジメントする役割が期待される人材です。

データ活用のプロジェクトは、「データを分析する」というプロジェクトだけではなく、「データ活用のための組織を作るプロジェクト」「データ活用・分析のためのシステム開発・基盤整備のプロジェクト」「データ活用人材を育成するためのプロジェクト」など、社内で様々なプロジェクトを運営していく必要があるため、得意領域を担当できるプロジェクトマネジャーが数名いることが理想です。

データエンジニア

データ活用のための基盤の整備・運用を担うエンジニアが「データエンジニア」です。

データエンジニアは、データを保管・活用するためのインフラシステムの構築、データを分析しやすい形に整える「整形」や「加工」、システムが滞りなく稼働するように運用・保守するのが主な役割です。

次に述べる「データアナリスト」あるいは「データサイエンティスト」といった人材が、データを適切に分析できるよう、データエンジニアがデータを整備します。

データアナリスト/データサイエンティスト

データアナリスト」や「データサイエンティスト」は、ビジネス課題の解決につながるようにデータを分析し、解決案を提案していく人材です。

データ活用の中心となる人材であり、優秀な人材を確保・育成できるよう各社がさまざまな施策を実施しています。

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ソフトウェアエンジニア

ソフトウェアエンジニア」は、ソフトウェアの設計や開発をするエンジニアです。

ソフトウェアエンジニアは、スケジューラ、クラスタマネージャ、負荷分散クラスタシステムなどのインフラを構築し、これらのシステムをより効率的に機能させるコードの実装にも携わります。

セキュリティエンジニア

セキュリティエンジニア」は、情報セキュリティの専門家として、外部からのサイバー攻撃やシステム障害による情報漏えいなどのリスクを未然に防止するため、セキュリティシステムの提案・設計・構築を行います。

情報漏えいは会社に大きな損害を与え得るため、データ活用における「守りの人材」として欠かせない存在です。

データ活用組織を作る4つのパターン

ここからは、「データ活用部門」を実際に設立していく場合に、どのように作っていけばよいのかについて以下の4つのパターンを元に解説していきます。

データ活用組織の4つのパターン

1. IT部門一体型
2. 事業部門一体型
3. データ専門部門新設型
4. データ専門会社設立型

データ活用組織の設計パターン

それぞれについて、概要とメリット・デメリットを解説いたします。

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IT部門一体型

IT部門の中にデータ分析チームを設けるパターンが、「IT部門一体型」です。

IT部門一体型のメリットは、分析および開発環境を自ら立ち上げることに対するハードルが低く、既存リテラシーを生かせることです。

一方、IT部門一体型のデメリットは、事業部門と距離があるため、業務の理解が不十分になる、アウトプットがニーズと乖離する、スピード感が損なわれる、優先順位付けが適切に行えないといったことが挙げられます。

事業部門一体型

各事業部門の中に分析チームを設けるパターンが、「事業部門一体型」です。

事業部門一体型のメリットは、分析対象となるデータの意味を深く理解でき、業務に求められる分析をスピード感を持って実施できることです。

事業部門一体型のデメリットとしては、希少性の高いデータリテラシーに富んだ人材が各部門に分散するため、データ活用人材の確保が大変であることが挙げられます。

データ専門部門新設型

社内にデータ活用専門の部門を新設するパターンが、「データ専門部門新設型」です。

専門部門新設型のメリットは、既存部署のしがらみがないため、理想に近い形で組織設計できる、人員の教育や働く環境を整備しやすい、マネジメントの強力なコミットメントを得られれば全社横断的なデータ活用を推進しやすい、といったことが挙げられます。

デメリットは、IT部門一体型のデメリットに加えて、既存部署から部署新設へ人員異動がスムーズにできるか、適切な人材を外部から採用できるか、その部署をリードできる人材を確保できるのかなどを考える必要があり、既存部署の拡張以上に労力が必要なことです。

データ専門会社設立型

データ活用・分析を専門的に実施する子会社を新設するパターンが、「データ専門会社設立型」です。

広告代理店などのエージェンシーと事業会社などがタッグを組んで出資し、こうした会社を設立する例が増えています。

会社設立型のメリットは、本社機能と異なる基準で採用、評価、報酬体系を設定できるので、優秀な人材を確保しやすくなることです。

また、本社や子会社のデータ活用テーマや、分析案件、データ活用基盤の構築などを一手に引き受けることができるため、依頼する側にとっては「困ったらここに相談すればいい」という安心感なども大きなメリットになるでしょう。

デメリットは、会社独自の管理部門を持つことなどが求められるので、会社設立のために必要な資金や会社機能を維持していくための工数がかなり大きくなることです。

また、本社から予算を割り振られないので、自力で稼ぐ構造を考える必要があります。

実際、「親会社やグループ会社から、思ったほど案件が来ない」という例もあるため、こうした専門会社を設立する場合は、その位置づけを明確にする必要があります。

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おわりに ~データ専門の組織作りは身の丈に合った形で!~

最後までお読みいただきありがとうございます。

今回は、データを活用して新たな価値を生み出すための「データ活用専門組織」について詳しく解説いたしました。

意外と、多くの機能や役割、人材が必要であることがご理解頂けたのではないかと思います。

ただ、これからデータ活用をスタートさせるような企業や、始めたばかりの企業がこれらの機能や役割、人材をすべて揃える必要はありません。

まずは自社の身の丈にあった組織体制や、データ活用の方向性や方法を考えていくことが第一です。

データ活用の組織作りでお悩みの際は、ぜひエスシードにご相談ください。