「データ」は私たちの暮らしやビジネスを前例のない速度で変えつつあります。

今後、「あらゆる企業はデータ企業になる」と言われることさえあります。

データを経営活動上の「資産」と捉えて、それをどう利活用するかが経営者だけではなくすべての従業員に求められているといっても過言ではないと思います。

そうした中で、今回はデータをどのように扱えばビジネス上の価値に繋がるのかを練り上げていく「データ戦略」について解説をしたいと思います。

データ」を経営戦略上での競争優位性に活用したい経営者や、「データ戦略」を実際に作り上げていく立場の担当者などのお役に立てれば幸いです。

この記事で分かること

✔ 「データ戦略」とはそもそも何か? が分かる!
✔ 「データ戦略」の全体像と重要性が分かる!
データ戦略」を実際に作っていく際の手順やポイントが分かる

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「データ戦略」とは何か?

まず、「データ戦略」とは何かについて考えてみたいと思います。

データ戦略とは、組織として達成したい戦略目標に対してどのようにデータを活用していくべきなのかの道筋を立てること、を指します。

ここで言う「組織」とは、ビジネス活動を行う会社組織から、大学などの教育機関、行政・自治体などの公共機関まで幅広いものを指します。

データの利活用は営利活動を行う企業だけではなく、あらゆる組織に必要とされているためです。

また、「データ戦略」を考える上で重要なことは、あくまで「組織として何を達成したいのか」をベースに考えるということです。

つまり、企業の「目指す姿」や「経営的な問題・課題」といったことを出発点にしてデータ戦略およびデータ利活用を考えることが求められる、ということです。

逆に言えば、「データを出発点にしてはいけない」ということです。

データがあるから何かをしよう」という発想ではなく、「データで何をするべきか」を常に意識することが重要です。

実際、「データはあるけど何もしていないから、何かやってほしい」といった要望や、「このデータから何か示唆を導き出してほしい」といった要望を弊社でも受けたことがありますし、そうした要望を叶えるべく努力してる方やデータ分析会社などもあると思います。

ただ、そうしたマインドでのデータ利活用が成果を生み出さないことが、多くの企業の事例や調査などからも明らかになってきています。

したがって、データ戦略を策定し、実際のデータ利活用を実行していくすべてのプロセスにおいては、

データがある → データで何かできないか考える → データを見てみる

といった思考プロセスではなく、

企業として目指すべき姿や現状の課題を明確にする → 目指すべき姿への到達や課題の解決のためにはどのようなデータが必要なのかを考える → そのデータから何が明らかになれば良いのかを考える

といった思考プロセスを踏んでいくことが大切になります。

「データ戦略」の重要性とは? 企業経営に直結

では、なぜデータ戦略を作り上げていくことが重要なのでしょうか。

それは、組織の活動(ここでは企業活動とします)に対してデータを活用することが、売上や利益の増加に貢献することが明らかになってきているためです。

例えば、マッキンゼー・アンド・カンパニーが行った調査によれば、データを企業経営のあらゆる場面に活用して意思決定をしていく「データドリブン経営」を実施した場合、2030年にかけて労働生産性が毎年2%改善していく中で、そのうちの60%は「データドリブン経営」からもたらされるものであると述べられています。

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また、データ活用を企業の経営戦略上の重要事項として明確に打ち出し、IR資料などでデータ活用による新たなビジネスモデルやそこから生み出される価値を明記している企業は、そうでない企業と比較して売上増加率が高い、という結果が報告されています。(ベイカレントコンサルティング 「データレバレッジ経営」より)

逆に、前述のマッキンゼーの調査によれば、データ活用に乗り遅れた企業は、現状の収益・コスト構造を維持したとしてもキャッシュフローが20%減少するという可能性が示唆されています。

このように、現代の企業経営においてはデータ活用を行うことで大きなメリットを受け取れる可能性がある反面、データ活用に取り組まなければ競争優位性をなくしてあっという間に市場から撤退を余儀なくされるという事態が起こり得ます。

よって、企業活動に対していかにデータを上手く利用・活用するかという戦略づくりが非常に大切であることが理解できるかと思います。

仮に「データ戦略」を持たずにデータ活用を進めようとする場合、以下のようなデメリットリスクが発生してしまいます。

● 自社にどのようなデータが必要なのか判断できない
● データの保管や管理の方法が定まらない

適切なデータ分析手法が定まらない
● データ分析の結果をもとに、どのような行動(施策)を取ればよいのか分からない
● 施策の結果が良し悪しが判断できない
● 自社に必要なデータ活用人材が定義できない
● 法的なリスクを事前に予測することができず、リスクマネジメントが機能しない

このように、戦略がないまま「手元にデータがあるから」といった理由でデータ活用を行うのは、デメリットやリスクが非常に大きいことがご理解頂けると思います。

「データ」を活用するためには、データを集めたり、加工したり、集計したり、可視化をしたり、といった様々なプロセスを踏んでいく必要がありますが、ビジネス的な成果に繋がることではじめて「価値」を生みます。

成果に繋がらないデータを大量に保有していたり、あまり意味のないデータ分析を行っても、それは「コスト」にしかなりません。

単にデータの「維持費」がかかるだけであればまだしも、顧客情報の流失や不正なデータ利用などを行ってしまった場合には、億単位での賠償金を命じられる事例も出てきています。

このように、しっかりとした「データ戦略」を持って、それに沿ってデータ活用を実行していくことが、データを扱うすべての企業に求められているといっても過言ではないと思います。

「データ戦略」の策定プロセス

では、「データ戦略」を実際に策定していく場合に検討するべきポイントについて解説したいと思います。

まず、データ活用の全体像としては以下のようなイメージになります。

データ活用は、データドリブンな経営をしていくための計画づくりや求められる成果を定義する「戦略フェーズ」と、その戦略に沿って必要なデータを収集・蓄積し分析をしていく「実行フェーズ」に分かれます。

今回は、「戦略フェーズ」において検討したいポイントを以下に解説していきます。

データ戦略の策定で検討するべきポイント

① 自社の課題に合わせて、データ活用目的を決める
② 経営戦略・事業戦略とリンクさせる
③ 明らかにしたい「問い」を決める
④ 評価するための指標を決める
⑤ データの利用者を決める
⑥ ガバナンス要件の検討
⑦ 適切な分析技術を選択する
⑧ テクノロジー要件を検討する
⑨ 戦略の実行に必要なスキル・人材を決める

自社の課題に合わせて、データ活用目的を決める

まずは、「なぜデータ活用をする必要があるのか?」という大きな目的を決めるところからスタートします。

重要なことは、「データがあるからデータ活用をする」ではなく、「課題を解決するためにデータ活用をする」という意識です。

この意識を常に念頭に置いた上で、以下の表にあるような「データ活用を実施したい領域」を絞り込んでいくとよいでしょう。

データ活用の目的(領域)内容の例主体となるレイヤー
経営戦略・事業戦略の策定売上データ等の社内情報や統計情報等の社外情報を幅広く収集・分析することによって売上への影響等を予測し、注力事業の決定や戦略立案を行う。経営層
経営管理経理データや売上データ、また各部門からあがってくるデータを分析してこれまでよりも短時間で予実管理を行う。経営層
内部統制強化取引データや経理データ等から不正の可能性や兆候のある取引を事前に検知し、内部統制を強化する。経営層~ミドル層
市場・顧客の調査、分析顧客データ、販売データ、SNSデータなどから消費傾向を分析し、ニーズや企業への評価を把握する。経営層~現場
商品・サービスの開発、改善商品、サービスに関するデータをセンサなどのシステムあるいは顧客から直接収集し、既存商品の改善や新商品等の開発に利用する。経営層~現場
在庫圧縮、最適供給販売データや気象データなどから需要予測を行い、生産・出荷量の調整を行う。
また、センサ等を取り付けてリアルタイムに在庫状況を把握する。
ミドル層~現場
業務効率化工場や店舗の稼働状況やスタッフの動きのデータを収集・分析し、業務プロセスの効率化・最適化を行う。ミドル層~現場
基礎研究・学術研究センサーなどから収集される大規模データを有効活用するための研究開発を行う。

② 経営戦略・事業戦略とリンクさせる

上記で、データ活用で重要なことは「組織の課題解決」を念頭において戦略を立てること、と述べましたが、それをもう少し深掘りすると、「データ戦略は経営戦略・事業戦略とリンクしているものでなければならない」という意味になります。

例えば、マーケティングにおける戦略・目標の中で、「ブランドの認知拡大」を最優先の事項として施策を実行していく、という戦略を立てていたとします。

その場合に活用するべきデータは、「お店やECサイトで誰が誰がどんな商品を買ったのか」という「購買履歴のデータ」や、メールマガジンやアプリでのメッセージを開封したのは誰か、といったデータではないはずです。

「ブランドの認知拡大」を改善していくために活用するべきデータは、自社のサービスや商品の特徴などを不特定多数に対して届けているソーシャルメディア(例えばTwitterやInstagramなど)に関するデータや、PRや広報を行う際に活用している媒体(プレスリリースサイトなど)のデータ、広告配信(テレビ広告やWeb広告)に関するデータ、といったものが挙がってくるはずです。

このように、データ戦略は自社の「意思決定プロセス」や「マーケティングプロセス」「業務プロセス」などを明らかにした上で、そのプロセスのどこに問題がありどこを改善することで、最終的にどのような成果を上げたいのかによって戦略を立てていく必要があります。

「顧客データを活用して、自社の顧客像を明らかにする」といった戦略を立てたとしても、それがマーケティング活動や企業の売上・利益に繋がらないのであれば意味がありません。

③ 明らかにしたい「問い」を決める

上記の例に沿って、「ブランドの認知拡大」のためにデータ活用をしていくとしましょう。

その際、「データによって答えを出したい疑問的」を整理しておくと、どのようなデータや分析が必要になるのかのイメージが明確になりやすくなります。

例えば、

● ブランドが認知されている・されていないをどのように定義するのか
● 自社にとってブランドを認知させたいターゲットは誰なのか?
● その顧客セグメントと接点を持つためには、どこでマーケティング活動をするべきなのか?

といった具合です。

これらはすでに「マーケティング戦略」の中である程度定義されている場合もあるかもしれませんが、こうした問いを1つ1つクリアにしていくことによって、「ブランドが認知されている状態を示すデータは何か「認知させたいターゲットに関するデータは自社にあるのか?」「ターゲットと接点を持ちやすいチャネルに関するデータはあるのか?」といった議論ができるようになります。

これにより、「なぜそのデータを使うことが成果に繋がるのか」といったことや、「データ活用による成果をどうやって検証するのか」といった説明や仕組み作りをする際にも役立ちます。

④ 評価するための指標を決める

おおよその施策とその方向性が固まれば、詳細なプランを策定して具体的な達成目標を月次や四半期といった単位で設定していきます。

ここでは、上記に沿って「ブランドの認知拡大」というマーケティング戦略を取ることを念頭に、ブランド認知や顧客接点に関するKPIを設定します。

モニタリングの指標としては、SNSのフォロワー数やエンゲージメント、広告の認識率やクリック数などが想定されます。

ここまで来れば、さらにその指標の推移を分析するためにSNSのログデータを分析したり、広告配信に関するデータを分析したりすることでキャンペーンの効果を測定するといったデータ活用のサイクルを一通り回していくことができるようになります。

データの利用者を決める

データの利用者」とは、データから導き出された示唆や結果を把握し、それをもとに行動を起こす「人」や「レイヤー」「部門」のことを指します。

利用者を決める」ということが重要な理由は、データ戦略とその成果を社内のキーパーソンが理解しやく利用しやすい形に変換することが求められるからです。

企業は、大まかに言えば「経営層」「ミドル層」「オペレーション層」といったように、3つのレイヤーによって成り立っている場合がほとんどであり、それぞれのレイヤーごとに利用するべきデータが異なります

例えば「経営層」にとって必要なデータは、企業の舵取りをしていくために必要な「マーケットシェア」に関するデータや「顧客セグメント」に関するデータ、会計や財務に関するデータなどになります。

マーケティングのデータ活用や分析を実際に行う際には、上記で決めた指標のように「SNSのフォロワー数」や「Webサイトへの訪問数」といったことを使います。

しかし、経営層にとっては「SNSのフォロワー数が前月より20%アップした」というような数字は全く意味を持ちません。

経営層としては、その数字がマーケティング活動の収支や利益、ひいては会社としての売上・利益にどう貢献したのかを知りたいためです。

したがって、「データを利用する人」に合わせて重要性の高い指標を見せる工夫が必要です。

⑥ ガバナンス要件の検討

データの収集や利用に対して、昨今ではガバナンス、コンプライアンス、法規制といったことが非常に厳しくなってきています。

データの不正利用などで巨額の賠償金を課されたり、企業の信頼を大きく損ねると、ビジネスでかなり不利な立場に置かれる危険性があります。

特に「個人」に紐づくようなデータを扱う場合は要注意です。また、他社からデータ提供を受ける場合や、自社のデータを他社に販売するような場合も十分な注意を払う必要があります。

ガバナンス要件に関してはマーケティング部門やデータを扱う部門だけでは検討が難しい場合が多いため、法務部門や社外の専門家(顧問弁護士等)と連携していく必要があります。

⑦ 適切な分析技術を選択する

データを収集したら、それを「使える情報」に変換する必要があります。それが「データ分析」のステップです。

データ分析」は、実際にやってみないと分からない部分や、試行錯誤を繰り返しながら精度を高めていくという側面があります。

よって、ここでは細かな分析手法を決めるというよりも、「データを基に何を明らかにしたいのか」という方向性を決めます。

例えば、まずはそもそも現状がどうなっているのかさえ分からない、という状況であれば「評価する指標」の直近の数字や過去からの推移などを把握するためにデータを集計・可視化する必要があります。

あるいは、具体的に「顧客が次に商品を購入するタイミングを予測したい」や「優良顧客とそうでない顧客を振り分けたい」といったテーマがあるのであれば、「予測」に適した分析手法や「クラス分け」に適した分析手法を選定することができます。

大切なことは、「手あたり次第にデータを触って、目的に沿わないデータ分析を行う」ということを避ける、ということです。

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⑧ テクノロジー要件を検討する

「テクノロジー要件」とは、利用したいデータを扱うために、どのような技術的な要件や制限があるのかを検討するということです。

例えば、過去3年分の顧客データを扱ってデータ分析を行いたいとしても、自社のデータベースの容量が少なく1年分のデータしか入らない場合にどうするか、といったことや、機密性の高いデータを扱う場合にデータを保管する場所や処理をする場所、実際に分析をする場所をどうするか、といったことです。

特に多いのは、「データを保管・管理する基盤をどう設計するか」といったことや、「社内の様々なデータを統合して一元管理するためにどのようなロジックを組むべきか」といったことです。

また、「データ可視化」や「分析」をどのようなツールで行うか、といったことも検討事項に挙がる場合が多いです。

ただし、これらの整備が終わるまでデータ活用をしないとなると大きなロスになってしまうため、現状の社内環境で可能な範囲でデータ収集や分析を進めつつ、並行してテクノロジー要件を改善していくことが大切になります。

⑨ 戦略の実行に必要なスキル・人材を決める

データ戦略の実行と目的の達成に必要なスキル・人材について検討します。

データの扱いに関する「データリテラシー」を持っていることは前提になりますが、対象となる領域の業務知識や、IT全般やネットワークに強い人材も必要になります。

データ戦略の実行に対して、社内の人材のスキルや経験が伴わないことも十分にあり得ます。

その際は、「いま社内にいる従業員のスキルを向上させる」「必要なスキルを持った人材を新たに雇う」「外部の企業などに委託する」といったことも検討する必要があります。

長期的な視点で見れば、新規採用や社員教育に時間とコストを充てるのは良い投資になり得ます。

しかし、短期的な成果を出さなければ社内でデータ活用への理解が進まない、といった状況や、とにかく早い段階で解決したい課題がある、という状況であればデータ分析専門企業などに分析作業を委託するというのも手です。

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おわりに ~「戦略づくり」が得意な企業になる!~

最後までお読みいただきありがとうございます。

今回は、かなり長文となってしまいましたが「データ戦略」の意味や重要性、策定の際のポイントについて詳細に解説をいたしました。

日本の企業は「戦略を作るのが苦手」と言われることが多く、特に中小企業では経営戦略や事業戦略も具体的なものが作れていないという場合もあるかと思います。

そうした中で「データ戦略」や「デジタルトランスフォーメーション戦略」を作って実行していくことも並大抵のことではありませんが、弊社が戦略づくりと実行に少しでもお役に立てれば幸いです。