社内でデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組もうと考えたとき、「どのような組織にDXの中心的な役割を任せればよいのだろうか」と悩む経営者や管理者層の方もいらっしゃると思います。

まずは「経営企画部門に任せてみよう」とか「デジタルや技術的なことが中心だから情報システム部門がよいかな?」など、どのような部門や担当にDXを任せればよいのか判断するのが難しい場合もあるかと思います。

そこで、今回は「DXを推進する社内体制」をどのように作っていけばよいのかを、いくつかのパターンを紹介しながら解説していきたいと思います。

御社に合った「DX組織体制」の検討や構築の手助けになれば幸いです。

この記事で分かること

✔ DX推進のための体制作りの基本的な考え方が分かる
✔ 体制作りのパターンが分かる
✔ 自社がどのような体制を目指すべきかのヒントがわかる

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「DXの体制」はどのように考えるべきなのか

そもそも、DXを推進していくための「社内体制」はどうあるべきなのか、ということについて考えてみたいと思います。

DXは新しいビジネスやサービスを生み出すプロジェクトのため、1つの部門だけで進めることは少なく、複数の部署で連携して進めていくことが多くなります。(企画、マーケティング、営業、ITなど)

これらの部門の利害調整が大切になりますが、お伺いを立てすぎると多くの時間がかかってしまいます。
そのため、社長や役員の意思決定を直接的に実行できる横断的なチームを作ることが不可欠になります。

こうした部門横断チーム(DXチーム)を作る場合、チームにどのような権限を与えるのか、社内での位置づけをどうするのか、どの部に関わってもらうのか、誰が適任なのかなど、検討しなければいけないことが多岐に渡ります。

特に、DXチームに対してどのような権限を与えるのかが非常に重要なポイントになります。

部門横断でチームを作ったとしても、そのチームが他の部門と横並びで、社内で数ある部門の中での1つに過ぎないような位置づけであれば、DXチームから各部門に対する依頼や指示に強制力を持たせることができないため、企業規模が大きいほど社内調整に膨大な工数を取られてしまうことになります。

あるいは、他の部門と同じようなプロセスで予算組みを求めてしまうと、予算組み自体に多くの時間を取られてしまったり、必要な予算が取れずに思い切ったDX推進ができない、という状況にもなりかねません。

このように、社内でDX推進の体制を検討して構築していく場合は、既存の組織とのバランスを上手く取りつつ、思い切った権限付与や予算付与をしないと、社内の「調整事」に忙殺されてしまい、エース級の人材をDXチームに集めても本質的な価値を生み出す仕事に現場が集中することができなくなります

特に、日本の大企業に多い「ジョブローテ型」の働き方では、「全員が同じ仕事を同じようにできるようにする」という意識があるため、高スキルを持った人材にも社内調整や契約手続きなどの雑務をやらせてしまう場合があります。

こうなると、現場としても生産性の高いチャレンジングな業務に集中できなくなるため、モチベーションが上がらずDXチームとしても機能しない、ということが起こり得ます。

DXチームは社内でも各部門のエース級の人材や有望な人材を選抜する必要があるため、そうした社員が経営層からの指示と各部門との利害調整で忙殺されないように、十分な配慮をしていくことが求められます。

社内で「DX体制」を整える3つのパターン

ではもう少し具体的に、どのようにDX体制を整えていけばよいのかを、いくつか想定されるパターンを紹介しながら見て行きたいと思います。

DXを推進する組織編成のパターンとしては、主に以下の3つが挙げられます。

DX推進の組織編制パターン

① 専門組織型
② IT部門拡張型
③ 事業部門主導型

それぞれのパターンについて、解説していきます。

① 専門組織型

専門組織型」とは、既存の部門にとらわれずに、DX推進に特化した新たな専門組織を編成して推進していく方法です。上記で解説した「部門横断チーム」がそれにあたります。

デジタルスキルが高い人材から、現場でのマネジメント力がある人材など、社内のタレントを集めて組織を編成していきます。

スポーツで言えば、野球やサッカーの日本代表チームのようなイメージになります。

それぞれのエキスパートと呼べる人材を集めるため、力強いDXの推進が期待できます。

一方、新たな組織は連携が弱いという側面もあります。そのため強いリーダーシップを発揮する人材を登用するなど、適材適所あるいは適所適材な組織を構築することが求められます。

加えて「なぜDXを行うのか」といった根本的な目的やビジョンが共有されていることも大切です。

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目的が明確になっていなければ、組織を結成したとしても、一枚岩となって推進していくことが難しくなります。

専門組織を結成する場合には、きちんとしたビジョンと高度なマネジメントが不可欠になります。

専門組織型のメリット

● DX推進のために集まるため、ビジョンや目的が明確
● メンバーのモチベーションが高く、DX関連業務に集中できる
● DX推進のための権限が与えられている

専門組織型のデメリット

● メンバーの選別が困難な場合がある
● 役割分担を明確にして組織作りをする必要がある

個性の強いメンバーのマネジメントが大変になる

② IT部門拡張型

「IT部門拡張型」とは、社内のIT部門が持っている専門的な知識やスキルを基盤にして組織を広げていく方法です。

IT部門には、デジタル領域に関して専門的な知識を持つ人材が多く配置されているため、DXを行なっていく場合にも技術的な面からスムーズに進めていくことが期待できます。

経営層が「そもそも、誰(どの部門)にDXを任せたらよいか分からない」という場合に、まずはデジタル領域に詳しい人材が多いIT部門に任せる場合も多いようです。

DX推進の場合は、新たなツールの導入や開発、社内のデータ基盤の整備などが必要になることが多いため、デジタル領域に明るいIT部門にDXをリードしてもらうことは理にかなっていると言えるでしょう。

また、新たにデジタル領域のスキルや知識を習得するためにかかるコストなども下げることができます。

一方で、IT部門はデジタル領域の知識やスキルは豊富ですが、顧客との接点が少なく、ビジネスのことがよく分からないというデメリットがあります。

既存システムの改修」や「勤怠管理システムの導入」といったように、社内向けのDXかつ要件が概ね決まっているようなプロジェクトであれば対応しやすいですが、「顧客にどんな価値を提供するべきか」といった顧客や市場に対するDX領域をIT部門に任せるのは難しいでしょう。

そのため、営業・マーケティングなどの部門と連携することで顧客視点も取り入れ、プロジェクトを進める必要があります。

IT部門拡張型のメリット

● 元々デジタル領域に強い社員が揃っており、ツールの導入や開発がしやすい
● DXに不可欠なデータ基盤の整備に取り組みやすい
● 社内の業務システムの長所・短所を理解している

IT部門拡張型のデメリット

● 技術的な検証はできるがビジネス視点での検証が不得意
● 既存のシステム開発や運用などで手がいっぱいだとDXに集中できない

他の部門に対する影響力や発言力が弱い場合がある

③ 事業部門主導型

事業部門主導型」とは、自社内の営業部門やマーケティング部門などの事業部門が主導し、IT部門の後方支援を受けながらDXを進めていくものです。

事業部門は自社の利益を上げていくために、商品やサービスについての深い知識やトレンドや社会情勢に対するアンテナ、他社と比較しての改善やビジネスモデルの創出などが求められる部門です。

常に売上の向上や自社を持続的に成長させるためにどうすれば良いかを考えている部門のため、事業部門が主導することで、スピード感のあるDXや現場目線のDXが達成しやすくなります。

特に、社内のデータ分析を専門のチームなどにすべて任せるのではなく、事業部内である程度実施しているような企業の場合は、DXの際のデータ活用に取り組みやすく、成果を出せる可能性が高まります。

一方で、デジタルに関する知見はIT部門よりも劣ってしまうため、しっかりとした連携が取れなければDXの推進が停滞してしまうのがデメリットとなります。

たまに見受ける例ですが、IT部門よりも事業部門のほうが社内での影響力や発言力が強く、IT部門をコストセンターのような扱いでしか見ていない場合があります。

そうした場合はIT部門がDXを主導すると事業部門の協力が得られないため、事業部門に主導してもらったほうがよいでしょう。

両者の関係性に上下関係があったり、利害調整がうまく行かないケースも散見されるため、対象となる事業部門とIT部門だけにDXを任せるのではなく、経営層や役員、経営企画部門などが両者の意見を取り入れて調整役に回ることも必要です。

事業部門主導型のメリット

● 市場の動向や自社の顧客のことを理解している
● 常に売上やコストを意識しているため、DXへのモチベーションがある
● 企画、営業、マーケティングなど特定領域での専門家が揃っている

事業部門主導型のデメリット

● デジタル領域に関する知識やスキルを新に習得する必要がある
● 既存の業務で手がいっぱいの場合はDX業務に工数を割けない

他の部門からの協力体制が得にくい場合がある

【ヒント】自社だったらどういうDX組織を作ればいいのか?

さて、ここまで「DX体制の考え方」や「組織化する場合のパターン」をご紹介してきました。

では、「うちの会社はどうすれば良いのか?」と悩んでいる方のために、いくつかヒントを書いてみたいと思います。

まず、組織横断的な「専門組織型」を作る場合は、以下のような条件を満たしていると組織作りがスムーズになると思います。

専門組織型を作る場合

社長や経営層のビジョン・目的が明確
組織の再編成や人事異動に慣れている
● 組織の中の風通しがよく、フランクに会話できる雰囲気がある

● 全社的に新しい取り組みやDXに対するモチベーションが高い
● 組織横断的にリーダーシップを取れる人材がいる

社内でDX推進の組織を作りたい場合、まず第一に「専門組織型」を作ることを目指した方がよいでしょう。

DXのことに集中できる組織であれば、予算・人材・工数といったリソースをすべてDXのために使うことができるからです。

ですが、上記のような条件を満たすことができる企業というのは限られてくると思います。

そのため、現実的には「IT部門拡張型」か「事業部門主導型」からスタートして、少しずつ規模を広めていったほうがよいでしよう。

IT部門拡張型」でDXを推進する場合は、IT部門が以下のような条件を満たしていると取り組みやすくなります。

IT部門拡張型を作る場合

IT部門に対しても十分な権限や予算を与えている
IT部門の中に、新たな技術やスキルの取得に前向きな人材がいる
● IT部門と事業部門に上下関係や風通しの悪さがない

● 自社での開発をこれまでも積極的にやってきている
● IT部門は社内ツールの使い方などを分かりやすく事業部門に伝えることができる

また、「事業部門拡張型」でDXを推進する場合は、事業部門が以下のような条件を満たしていると取り組みやすくなります。

事業部門拡張型を作る場合

事業部門が自発的に新しい取り組みを行っていく社風がある
事業部門によるボトムアップがこれまでも多い
事業部門がITツールを活用することに慣れている
● これまでも事業部門が主体となってプロジェクトを進めた経験がある

● 顧客データなどを事業部門でしっかりと活用できる環境が整っている

このように、企業が置かれている状況によってどのようにDX体制を作っていくべきかは異なってくるため、正解はありません。

DXのビジョンや目的を定め、自社にあったDX体制を試行錯誤しながら粘り強く見つけていくことが大切です。

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おわりに ~DXは会社組織そのものを考えることに繋がる~

最後までお読みいただきありがとうございます。

DXの組織構築や組織体制は、100社あれば100通りの形があるというように、「こうすれば良い」という正解はありません。

ただ、そこには押さえるべきポイントが確実に存在しています。

迷ったときには、今回ご紹介した「DX体制の基本的な考え方」と「体制づくりのパターン」を参考にして頂けたら幸いです。

DXは「ITのことはIT部門に任せればいい」「マーケティングのことはマーケティング部門に任せればいい」といったように、担当組織に丸投げせず、会社全体としてどうすればより付加価値の高い業務やサービスを生産できるのか、ということとセットにして考えていくことが大切です。

体制づくりでお困りの際は、ぜひエスシードにご相談ください。