近年、情報技術の発展に伴い、さまざまな業界がデジタル化を進めています。

しかし、福祉や介護業界はまだデジタル化が十分に浸透していないと言われており、この課題に対処することが求められています。

本記事では、福祉や介護業界におけるデジタル化を実現するための方法を考察し、福祉・介護DX(デジタルトランスフォーメーション)を詳しく解説します。

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福祉・介護業界が直面している課題とは?

日本の福祉・介護業界は、高齢化に伴い需要が増え続けていますが、さまざまな課題が存在しています。

これらの課題に対処するために、業界のデジタル化が期待されており、その事例とメリットを以下に紹介します。

介護・福祉業界が直面する課題
1. 人手不足
2. 利用者の経済的負担
4. 介護の質の低下
5. ケアの多様化への対応

課題① : 人手不足

厚生労働省が令和3年に発表した「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」の報告によると、2025年時点で約37.7万人もの介護職人材が不足すると予測されており、この介護職人材不足は増え続け、2040年には日本全国で69万人もの介護職員が不足するという試算が発表されました。

この深刻な人手不足によって、福祉・介護の現場では、少ないスタッフで膨大な業務をこなす必要性が生じ、休みを取ることが難しくなっています。

デジタル化によって業務を効率化させ、人手不足を解消することが急務と言えるでしょう。

課題② : 利用者の経済的負担

福祉・介護サービスは、高額な費用がかかることが多く、高齢者やその家族にとって、大きな経済的負担となることがあります。

60歳以上の高齢者の収入は、年金を中心に月20万円未満が多く、多くても30万円未満です。(参考 : 内閣府 高齢社会対策に関する調査)

特に、施設への入居が必要となる介護サービス利用時の経済的負担は決して少なくないでしょう。

福祉・介護の担い手不足や、自己負担額の増加によって本来受けるべきサービスを受けることができないという状況が増えていくことが懸念されます。

課題③ : 介護の質の低下

福祉・介護業界における「人材不足」は、「介護の質の低下」にもつながると言われています。

「離職率が高い」と言われる福祉・介護業界ですが、「令和3年度介護労働実態調査」(出典:(公財)介護労働安定センター)によると、1年間の離職率は全体で14.3%とされています。

退職した理由として、職場の人間関係や結婚・出産育児、事業所や施設の運営方針への不満などが多くなっています。

また、「介護サービス業従業員満足度調査」(出典:株式会社リクルートキャリア)によれば、従業員満足度が高い事業所ほど、利用者満足度も高い傾向があるというデータが示されています。

また、従業員からみて利用者満足度が高いと、従業員自身も働きやすく、正規従業員の流出率が低くなることが示唆されています。

このように、「福祉・介護現場の労働環境を改善」が介護の質の維持や向上に大きな影響を与えていると言えます。

課題⑤ : ケアの多様化への対応

介護が必要な人々の状況は多様化しており、そのニーズに合わせたケアが必要です。

厚生労働省が公表している「新たな福祉サービスのシステム等のあり方検討プロジェクトチーム」の報告書によれば、福祉・介護サービスが充実・発展している一方で、核家族化やひとり親世帯の増加、地域のつながりの希薄化などにより、家族内や地域内の支援力が低下しているという現実を指摘しています。

新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン(概要)

さらに、医学の進歩に伴って医療を受けながら地域で暮らす患者が増え、福祉サービスへのニーズも増大しています。

このような背景から、福祉・介護ニーズは今後もますます多様化、複雑化していくことが予想されます。

福祉・介護の業務をデジタル化するメリットとデメリットは?

では、福祉・介護業界の様々な課題に対して、デジタルを活用していく際のメリットとデメリットについて考えてみたいと思います。

まずは、福祉・介護の業務をデジタル化することによるメリットについてみていきます。

福祉・介護の業務をデジタル化するメリット

福祉・介護のデジタル化のメリット

✔ 作業時間の短縮
✔ 情報共有の容易化
✔ 低コスト化
サービスの質の向上

メリット① : 作業時間の短縮

2021年にトライトグループが実施した調査によれば、デジタル化により、約半数(45.2%)の福祉・介護事業者が業務効率化を図っています。

特に、「介護記録業務」や「介護報酬請求業務」のデジタル化が進んでおり、作業時間の短縮がある程度実現されてきていると言えるでしょう。

まずは、こうした「事務処理」といった業務をデジタル化していくことが福祉・介護のDXの第一歩と言えます。

メリット② : 情報共有の容易化

上記の同調査によると、福祉・介護の事業者がDX推進のために活用されているツールとして、「コミュニケーションツール」が上位に挙がっています。

タブレット端末やアプリなどを利用することで、従業員間の意思疎通や情報共有が容易になり、業務効率が向上しています。

これまでは申し送り事項や支援履歴などを紙に書いて、必要に応じてコピーして共有するといったことが当たり前でしたが、そうした業務をペーパーレス化することによって、大きな業務効率が実現できます。

特に、訪問介護においては、約8割の事業者がデジタル活用を望んでおり、情報共有の重要性が高まっています。

メリット③ : 低コスト化

デジタル化によって、紙の書類や文具などのコストが削減されます。さらに、作業時間の短縮により残業時間代などの人件費の削減にも繋がります。

2019年にIDC Japanが調査した結果によれば、国内企業がDXへの取り組みによって得た効果については、「コスト効率性」(27.3%)と「生産性の改善」(25.3%)がトップ2であると報告されています。
(参考 : デジタル変革の効果はコスト削減と生産性向上がトップ2、世界からは遅れ─IDC)

また、2021年に株式会社フレクトが調査したDXに関する調査では、DXに期待する成果・効果としては、「コスト削減」が51.7%で最も多く、次いで「業務プロセスや業務システムの改善」が48.3%という結果が公表されています。
(参考 : 企業と顧客がデジタルでつながる「攻めのDX」を支援するフレクト、 企業のDX推進に関する実態調査レポートを発表)

デジタル化は企業の規模が大きいほど効果を発揮するため、福祉・介護業界においては100人単位の利用者がいる入居施設などでのデジタル化が、大きなコスト削減効果に繋がると考えられます。

メリット④ : サービスの質の向上

デジタル化が進むことで、介護サービスの質が向上することが期待されています。特に、今後のDX取り組みにおいて、「施設利用者の支援業務」や「身体介護業務」が重要視されています。

また、介護保険制度改正により2018年から導入された「科学的介護推進体制加算」により、利用者のデータを活用した介護サービスの向上が求められており、介護記録業務への取り組みが強化されることが予想されます。

これにより、利用者に対してより適切なケアプランが提供されることが期待されます。


以上のように、福祉・介護業界におけるデジタル化は、作業時間の短縮、情報共有の容易化、低コスト化、サービスの質の向上といったメリットをもたらしています。

具体的な事例やデータからも、デジタル化が福祉・介護業界の課題の解決に役立つことがご理解いただけるかと思います。

福祉・介護の業務をデジタル化するデメリット

一方で、デジタル化をしていく場合の課題やデメリットも存在しています。

例えば、「知識・ノウハウが無い」、「予算がない」、「費用対効果が低い・分かりにくい」といった問題が挙げられます。

福祉・介護業界におけるデジタル化の推進には、従事者に対して、最新のITやデジタルに関する情報を正確かつ分かりやすい内容で共有していくことも大切になってきます。

また、福祉・介護は利用者の体調や精神面といったかなりプライバシーレベルの高い情報を扱う事業になるため、「情報漏洩」や「セキュリティ」といった面にも配慮が必要です。

福祉・介護業界のデジタル化のポイントは?

では、実際に福祉・介護業界のデジタル化を進めていくためにはどのような点がポイントになってくるのでしょうか。

ここでは、3つのポイントをご紹介したいと思います。

ポイント① : 業務効率化と働き方改革

デジタル化により、介護現場での業務や事務処理が効率化されることで、介護職員の負担軽減が期待されます。

例えば、スマートフォンやタブレットを使って業務を行うことで、紙ベースの業務からの脱却や、リアルタイムでの情報共有が可能になり、働き方改革が進みます。

これにより、職員の満足度が向上し、介護業界の人手不足の解消につながることが期待されます。

ポイント② : コミュニケーションの向上

以下にご紹介するようなデジタルツールを活用して、利用者、介護職員、医療関係者などが円滑に情報共有できるプラットフォームの導入や、遠隔でのコンサルテーションや診断が可能になります。

これにより、効率的なコミュニケーションが実現され、サービス提供の迅速化や適切な判断が可能になります。

ポイント③ : データの収集・管理・活用

デジタル化によって、利用者の健康状態や介護の履歴などのデータが効率的に収集・管理できます。

これらのデータを適切に分析・活用することで、個々の利用者に対する最適なケアプランの策定や介護サービスの質向上が期待されます。

これまでは、職員の経験や勘といったことに多くの部分を頼ってきた福祉・介護業界ですが、データを活用することによって業務を俗人化させることなく、質の高い支援を利用者や家族に提供することに繋がります。

福祉・介護業界にオススメのデジタルツールは?

ここからは、福祉・介護業界のデジタル化にオススメのツールを、業務別にいくつかご紹介していきます。

事務処理に関する業務効率化ツール

福祉・介護事業の事務処理を効率化するデジタルサービスをご紹介いたします。

AI・介護記録ソフトの「Care Viewer」

AI・介護記録ソフト|CareViewer (care-viewer.com)
  • CareViewerは、介護事業所運営をサポートするツールで、現場職員が操作しやすい機能が充実しており、スマホ、タブレット、PCとあらゆるデバイスに対応。
  • データで介護記録を一元管理でき、チャットを活用し、コミュニケーションを円滑化することによってチームケアの質が向上。導入から運用までフルサポートされており、初めてでも安心して使える。
  • 費用は月額5000円~で、フリープランも用意されている。

介護業界の面倒なシフト管理を楽にする「CWS for Care」

CWS for Care|介護専門シフト管理サービス (care-infocom.jp)
  • CWS for Careは、介護特有の制度やルールに対応した、介護専門のシフト管理サービスで、介護事業者のシフト作成にかかわる業務効率化を支援。
  • CWS for Careなら、介護業界ならではの必要な人員の配置基準や加算要件、職種の兼務を考慮したシフト表の作成や勤務形態一覧表の作成も簡単に。
  • 料金は500円/1名~ より。詳細は要問合せ。

ボタン1つで簡単国保連請求ができる「カイポケ」

請求ソフト「カイポケ」 (kaipoke.biz)
  • カイポケは、介護事業向けの顧客管理やレセプト業務である請求業務を軸とした経営支援ソフト。
  • カイポケの利用事業者数は2019年8月5日時点で25,000件、また獲得シェアも業界上位にある多くの事業者様から選ばれている介護ソフトで、業界で多く使われている介護ソフトの1つ。
  • 利用料金は要問合せとなっています。

ケアプラン作成に関する効率化ツール

ケアプランの作成をサポートしてくれるデジタルサービスをご紹介いたします。

ケアマネジャーの業務を支援する「ケアマネくん」

ケアマネくん – ケアマネジャー支援ソフト | 日本ケアコミュニケーションズ (care-com.co.jp)
  • 「ケアマネくん」は、介護支援専門員の業務をサポートするために開発されたソフトウェア。
  • 介護保険制度におけるケアマネジメント業務を効率化でき、ケアプラン作成や介護サービスの提供状況の確認、利用者情報の管理などが行えます
  • 介護保険制度に関する法律や規則に基づいて機能が設計されているため、業務の効率化や品質向上につながる
  • 料金 : 「親ID」が月額7,000円~、「子ID」が月額1,000円~。初期費用30,000円。

AIがケアプラン作成を支援する「ミルモぷらん」

ミルモぷらん|ケアプラン作成支援AI|ケアマネジャー向けクラウドサービス (welmo.co.jp)
  • ミルモぷらんは、ケアプラン作成業務を「効率化する」だけではなく、知識と経験も「共有する」新しいクラウドサービス
  • アセスメント情報から利用者に合ったニーズや目標を提案し、ケアプラン作成における視点の漏れと言い回しの手間を省く。
  • 文章をゼロから考える必要がないので、短時間で質の高いケアプランが作成でき、空いた時間で相談援助業務に注力できる
  • 料金 : 要問合せ

利用者介助に関するスタッフ支援ツール

利用者を介助する際に介護職員をサポートしてくれるツールをご紹介いたします。

介護現場の「中腰」の課題を解決する「マッスルスーツ」

中腰作業の効率アップに。 | マッスルスーツ エブリィ-MUSCLE SUIT EVERY
  • マッスルスーツエブリィは、介護現場での利用者の身体介助や、中腰姿勢を長時間維持する作業時に腰を補助し負担を軽減するアシストスーツ
  • 手動の空気入れで空気を入れて人工筋肉の力を引き出すタイプのアシストスーツで、すべての人の健やかなライフスタイルを実現
  • 身体を酷使することによる早期退職者の発生や介護現場の人手不足解消に
  • 料金 : S-Mサイズ(身長150-165cm)用は139,900円~、M-Lサイズ(身長160-185cm)用は149,600円~

重介護ゼロを目指す「HAL®腰タイプ介護・自立支援用」

HAL®腰タイプ介護・自立支援用 – CYBERDYNE
  • 「HAL®腰タイプ介護・自立支援用」は、介護する側と介護される側に対して、介護支援と自立支援の2つの用途で活用できる装着型サイボーグ
  • 介護者が装着することで、介護動作時の腰部負荷や腰痛発生リスクを低減することを目的とした「介護支援用途」と、要介護状態の方が装着することで、弱った足腰などの身体機能の向上を目的とした「自立支援用途」の2つの用途で使用できる。
  • 料金 : 要問合せ

家族等との面会やコミュニケーション支援ツール

利用者の家族との連絡や面会に関する業務を効率化するデジタルサービスをご紹介いたします。

家族とのコミュニケーション業務を一元管理「HitomeQひとめく コネクト」

介護施設向け連絡ツール、家族連絡もオンライン面会も面会予約も負担軽減! – HitomeQ コネクト | コニカミノルタ (konicaminolta.jp)
  • HitomeQひとめく コネクトは、介護施設の業務に特化した、コミュニケーション用の総合アプリケーション。
  • ご家族はLINEアプリから、施設はブラウザから簡単にコミュニケーションが可能。
  • 介護施設で起こる様々なシチュエーションに対応できるよう、「連絡・面会・イベント・安否確認」などの機能を搭載。
  • 料金 : 初期費用0円、月額0円~利用可

その他、オンライン会議システムの「Zoom」や「Skype」、通話アプリの「LINE」などを活用すればほぼコストゼロで利用者家族とのWeb面談などを実施することができます。

おわりに ~福祉・介護業界をデジタルで支える~

最後までお読みいただきありがとうございます。

今回は「福祉・介護業界のデジタル化・DX」について、業界が直面する課題やデジタル化が求められる背景、デジタル化のメリットや重要なポイントについて解説いたしました。

福祉・介護業界のデジタル化を進めるためのツールやソリューションは日々進化しており、その活用法が今後ますます重要になってきます。

福祉・介護業界でIT活用やデジタル化にお困りの事業者様はぜひお気軽にエスシードにご相談ください。

私たちは、福祉・介護業界のデジタル化をサポートし、質の高いサービス提供に貢献いたします。