近年、「データ活用」や「デジタルトランスフォーメーション(以下DX)」に取り組む企業が増えてきている中で、社内でそれらを推進する際に行うのが「プロジェクト化をする」ということです。
「データ活用」であれば、「顧客データを活用した商品改善のプロジェクト」、「DX」であれば「紙でやりとりしていた社内文書を、すべてデジタルに切り替える」といったプロジェクトなどがあります。
今回は、「データ活用」を「プロジェクト化」していく際に、「どのような分野・種類のプロジェクトが存在するのか」「何を目的としたデータ活用プロジェクトなのか」といったことを紹介・解説していきたいと思います。
実際の事例なども踏まえて解説していきますので、ぜひ「自社がやりたいデータ活用プロジェクトはどんな内容が考えられるだろうか?」と悩んでいる経営者や担当者の方の参考になれば幸いです。
✔ データ活用プロジェクトの様々なパターンが分かる
✔ 特に重要な分野のプロジェクトが分かる
✔ 実際の事例を基に、データ活用プロジェクトのイメージが分かる
データ活用プロジェクトの種類の全体像
まず、「データ活用」に関するプロジェクトは、大きく2つに分類できます。
1つは、「社内」の意思決定や業務改善を目的としたデータ活用です。
もう1つは、「社外(市場や顧客)」に対して働きかけていくためのプロジェクトです。
それぞれについて以下で解説していきます。
① 「社内」を変えていくためのデータ活用プロジェクト
② 「社外」に対する働きかけを変えていくためのプロジェクト
① 社内を改善・改革するためのデータを活用するプロジェクト
社内の業務改善やDX推進のため、主に社内で収集・蓄積されるデータを活用します。
例としては以下のようなプロジェクトが挙げられます。
- 経営指標改善・業績管理に関するデータ活用プロジェクト
- 人事・労務、オペレーションに関するデータ活用プロジェクト
- 分析基盤開発・運用に関するプロジェクト
経営層やバックオフィスが主体となり、社内を対象としてプロジェクトを推進するため、DXにおいてはこの部類のプロジェクトは「守りのDX」と言われる場合があります。
② 社外(市場や顧客)に関するデータ活用プロジェクト
もうひとつが、「市場」や「顧客」といった社外に関するデータを活用して、社外に対して働きかける・価値を生み出す・提供する、といったプロジェクトです。
営業活動やマーケティングプロセスの改善、新規事業開発といった、顧客を含む外部に向けたプロジェクトが主となります。
最近では、「SDGs」の取り組みを社外にアピールするため、地域や環境に関するデータなどを活用して社外に発信するといったことも考えられます。
この部類のプロジェクトとしては、以下のような例が挙げられます。
- 新規事業開発に関するデータ活用プロジェクト
- 既存の顧客分析における売上向上・サービス改善プロジェクト
- 法人顧客に対する提案、協業のためのデータ活用プロジェクト
外部のステークホルダーに対して働きかけていくことや、企業の売上に直結するプロジェクトになることから、前述の「守りのDX」と対比して「攻めのDX」と言われる場合があります。
また、以下ではどの企業のデータ利活用においても避けて通ることのできないプロジェクトとして、
データを管理・保管・処理・分析するための基盤開発・運用等
社内のデータや、顧客データなどを分析して業務改善や売上向上を目指すプロジェクト
データ活用やデジタル領域に対応できる組織改編や人材を育成するプロジェクト
という3つの領域のデータ利活用プロジェクトについて詳細に解説していきます。
データ活用・分析基盤に関するプロジェクト
ここからは、「企業としてどのようにデータを扱うか・向き合うか」といった「データガバナンス」や、社内で保管・管理するデータをどのようなシステムで運用するか、といった「データ活用・分析基盤」に関するプロジェクトの内容や事例を紹介します。
この領域では、「データガバナンスの実施に責任を負う者」という意味での「データスチュアード」と呼ばれる人材や、データ活用基盤の全体的な設計を担う「データアーキテクト」あるいは「データエンジニア」といった人材が活躍します。
事例① データガバナンスの仕組み作り・運用に関するプロジェクト
「データガバナンス」とは、データを統治(ガバナンス)するために企業としての体制を整えることを指します。
DXを推進するためにはこのデータガバナンスが非常に大切です。
以下の図は、「データマネジメント協会」が公表している「DMBOK(ディムボック)」と呼ばれるデータマネジメント領域の概念図になります。
プロジェクトマネジメントにおける「PMBOK」のようなイメージです。
これを見ると、「データマネジメント」の全体的な取り組みにおいて、中心として位置づけられているものが「データガバナンス」であることが分かります。
ただ、この「データガバナンス」という領域は「データサイエンス」といった「実際にどうやってデータを分析するか」といった取り組みと比較してスポットが当たりにくく、本格的な運用をしているのは日本企業の中でも一部の大企業に限られてくると思います。
「そもそもデータガバナンスが何なのかよく分からない」「何をしたら良いのか分からない」という企業が大半だと思いますが、データ活用やDXを全社的に推進していく上では必ず必要な機能になります。
実際、コンサルティングファームのEY Japanが2022年度に国内の上場企業506社を対象にした「データガバナンスの成熟度調査」によれば、半数以上の企業でデータガバナンスへの取り組みが進んでいないことが明らかになっています。
データガバナンスができていないと、ステークホルダーに対する情報開示や価値の訴求といったことに対してもマイナスな影響を与えるとされており、多くの日本企業の課題になっていると言えるでしょう。
事例② データ基盤開発・整備に関するプロジェクト
データ活用を推進していくにあたって、これも避けて通ることができなのが「データ活用基盤の開発・整備・運用」といった取り組みになります。
「データ基盤」とは、社内・社外の様々なデータを一元的に管理し、それらを適切に分析できるような形に整えていくITシステムの総称のことを指します。「データ活用基盤」あるいは「データ分析基盤」といった呼び方をする場合もあります。
具体的には、データを蓄積する「データレイク」や、それを加工してデータ分析用のテーブルとして保管する「データウェアハウス」などを構築し、継続的にデータの収集・加工・分析を行い経営に活用していきます。
社内のITインフラに深く関わる領域のため、IT部門やエンジニアが多い部署などが中心となってプロジェクトを進めていくケースが多くなります。
また、近年では自社のサーバーではなく、Amazon Web Services(AWS)やGoogle Cloud Platform(GCP)などのクラウド環境にデータを保管して加工や分析を実施するケースが多いため、クラウドツールに強い人材も必要になります。
使用するツールについては上記のAWSやGCPのように、ある程度選択肢が限られてきますが、「ツールをどのように使うか」という意味では100社あれば100通りの使い方があるというように、データ基盤の使い方については正解がないため、社内環境やビジネス環境の変化に合わせてデータ基盤も常にアップデートしていくことが求められます。
データ活用基盤の整備によって成果を上げている例としてはサッポログループが挙げられます。
複数のグループから構成されるサッポログループでは、2022年に「全社DX宣言」を打ちだしました。
グループ全社が一丸となってDXを推進できるよう、グループDX・IT委員会を設立し各事業会社間でのデータ活用を活発化できるように体制を整備しています。
事例③ ダッシュボード開発・運用に関するプロジェクト
データを可視化する手段として、「ダッシュボード」という形式が存在します。
ダッシュボードとは、データの集計や最新情報などをグラフや表を用いて経営に最適な状態に可視化することで、データ分析の専門家ではなくても容易にデータから示唆を得ることができるような仕組みを指します。
データ活用プロジェクトのゴールのひとつとして、「会社経営への迅速なフィードバック」が挙げられます。
収集したデータを会社経営に活かすためにも、データをその場に適した形式で可視化することが必要です。
これまでExcelなどを使って手作業で表やグラフなどを作成していた場合などは、大幅に作業の工数を削減できるだけでなく、ダッシュボードとデータを接続することによって最適化・リアルタイム化された情報を閲覧できるため、より早い経営判断が可能となります。
こうしたダッシュボードを専門的に開発・作成する人材のことを「BIエンジニア」と呼んだりします。(「BI」は「ビジネスインテリジェンス」の略)
前述のサッポログループではデータ基盤の整備だけでなく、データを可視化するような体制を整えており、「直感的な意思決定からデータをもとにした意思決定へと移行」することに成功しています。
データ分析に関するプロジェクト
次に、「社内」や「社外」の様々なデータを分析して、業務改善やサービス向上などにデータを活用するプロジェクトを紹介します。
「データアナリティクス」や「データサイエンス」と呼ばれる分野の知見や技術を活用していくため、「データアナリスト」や「データサイエンティスト」といった人材が活躍するプロジェクトになります。
事例④ 社内の業務改善に関するデータ活用プロジェクト
「勤怠管理」や「オペレーション」といった、社内の業務をいかに効率よく、低コストで回していくかというテーマに対してデータ活用プロジェクトを実行していくケースも最近では増えてきています。
特にどの企業でも必ず実施する必要のある「労務管理」については、まだまだアナログな管理方法で実施している企業も多く、「タイムカード」などを使いながら管理に苦労していることでしょう。
これらの作業は、企業経営の視点から見ると直接的に価値を生み出す仕事ではないため、なるべく工数を削減したいのが経営者のホンネではないかと思います。
例えば、こうした「労務管理」にデジタルツールを導入することによって、「労務管理」自体の工数削減ができるだけではなく、「社員の勤怠状況」を「データ」として扱うことができるため、働き方の改善などに繋げていくことが可能になります。
具体的な例としては、「TeamSpirit(チームスピリット)」と呼ばれる勤怠管理ツールがあります。
このツールを使うことで、社員の勤怠情報や残業時間の多い社員がリアルタイムにダッシュボード上に表示されたり、どのプロジェクトにどのくらいの工数をかけたかが自動で集計されるため、原価計算も簡単に行うことができます。
こうしたツールを使いながら社内の「働き方」に関する様々なデータを収集し、労働環境の改善やコスト削減、生産性向上につなげていくことが可能になってきています。
事例⑤ 新規事業創出のためのデータ活用プロジェクト
近年では、「新規事業」を作り上げていくためにデータ活用に取り組んで行くという例も増えてきています。
自社のデータだけでなく、他社のデータや「オープンデータ(自治体などが公表しているデータ)」なども活用し、相互に連携することで新しい事業を創出することも可能です。
福島県の会津若松市では、同市が中心となり「スマートシティ推進事業」をスタートしています。
なお、この事業には会津大学や地域の様々な企業が参加し、コンソーシアムが結成されています。
同事業では、「食・農分野」「観光分野」「決済分野」「ヘルスケア分野」「防災分野」「行政分野」の6つの分野で市民向けのサービスを実装を進めており、2022年10月には一部のサービスが先行で利用可能となっています。
このように、1社だけでは実現が難しいサービスも、データ基盤を連携することで実現可能となる場合があります。
特に近年注目されている「スマートシティ」のような大規模なプロジェクトにおいては、データ基盤の構築や連携が必須となってきています。
事例⑥ 既存サービスの売上向上、サービス改善に関するプロジェクト
スーパーマーケットをはじめとする多くの小売店では、品切れによる機会損失が売上の減少に直結します。
しかし、在庫を多く抱えてしまうと在庫過多による倉庫圧迫や食品ロスのリスクがあります。
多くの企業では需要を予測するシステムを導入しており、発注数をコントロールしています。
しか、需要を正確に予測するのは非常に困難と言えます。
生鮮食品を扱うスーパーマーケットの「ライフ(株式会社ライフコーポレーション)」では、AIを活用した新しい需要予測システムを構築し、高い需要予測を実現しました。
需要予測には、店舗の売上や特価の情報だけでなく、天候やカレンダーといったデータを総合的に活用することで精度を高めるような仕組みを構築しています。
発注業務をAIに任せることで業務効率化を見込めるだけでなく、欠品や食品ロスを減らすことで売上・サービス向上に繋がっています。
事例⑦ コスト削減のためのデータ活用プロジェクト
会社経営において、利益を増やす上でコストを削減することも重要です。
特に飲食物を取り扱う小売業では、食品ロスが大きなコストとしてのしかかります。
コンビニエンスストア大手のローソンでは、この食品ロスによる廃棄コストを削減するため「AI値引き」を導入しています。
ただ値引きをしただけでは購入されないことも多いため、適切なタイミングで適切な商品を値引き対象とする必要があります。
同社では、購買実績や店舗実績といった社内データだけでなく、天気予報などのオープンデータを活用することで最適な値引きタイミングをAIがレコメンドしています。
これにより、店長や店舗スタッフなどの人間が「経験や勘」によって判断する必要がなくなり、値引きのフローも見直したことで店舗運営も効率化されました。
組織作り・人材育成に関するプロジェクト
最後に、データ活用に強い組織を作るうえで重要な「組織作り・人材育成」に関するプロジェクトを紹介します。
近年は特に大手企業を中心に「自前で人材を育成する」というニーズが高まってきており、プログラミングや統計学などを駆使してデータ分析を行える人材だけではなく、データを活用したビジネス創出ができる人材や、データ基盤の整備ができる人材など、多様なデータ活用人材の育成をプロジェクト化する例が増えてきています。
事例⑧ データ活用組織を作るためのプロジェクト
コロナ禍が収束しない中で生活様式は大きく変わり、また世界的なインフレや抗争が進む中で各企業は対応に追われていることでしょう。
その変化に迅速に対応するためにも、企業活動の様々な意思決定にデータを活用することが必須と言われています。
そうした、社内外の様々なデータを活用し、企業経営に生かすことを「データドリブン経営」と呼びます。
そうした組織作りをしていく際に最重要なのは、経営層からデータ利活用を推進していくことです。
2020年に「データドリブン経営」への移行を打ち出した富士通では、グローバルおよびグループ全体の経営、業務プロセス、データ、ITを標準化し、ひとつのシステムとしました。
これにより、経営層から現場まで、あらゆる場面において意思決定やオペレーションの最適化が可能になるとされています。
富士通は、まだ完全にデータドリブン経営に移行できたとは言えないようですが、取り組みを進めることによって、財務指標に対するポジティブ・ネガティブな影響が見えるようになってきているようです。
富士通は元々IT企業として日本でも有数の企業のため、そうではない事業会社などが富士通と同様な取り組みをしていくのは難しいかもしれませんが、日本企業の成功事例が増えてくると、より一層データ利活用やDXが進んでいくと思われます。
事例⑨ データ活用人材、AI人材の育成などに関わるプロジェクト
AIエンジニアやデータサイエンティストをはじめとする、データを活用できる人材は非常に不足していると言われています。
そんな中で、NTTドコモでは「データコンサルタント」「機械学習エンジニア」「データエンジニア」といったデータ活用人材を、自社で1000人以上育成するという取り組みを2021年度から開始しています。
また、大手化粧品の資生堂もコンサルティングファームのアクセンチュアと協力して資生堂グループ内で、デジタル・IT関連の人材育成カリキュラムの実施を2022年度から開始しています。
上記は社内の人材を育成する取り組みですが、KDDIでは外部のDX人材を発掘し育成するためのプロジェクトを発足して、新規事業立ち上げのサポートを積極的に実施しています。
同社は、東京の一極集中ではなく地方に目を向けており、地方のスタートアップ支援だけでなく地方の学生の支援にも力を入れています。
おわりに~データ活用はデータの専門家以外の力も必要!~
最後までお読みいただきありがとうございます。
社内でデータを活用するプロジェクトを推進するにあたり、さまざまなアプローチ方法があることがお分かりいただけましたでしょうか。
企業のもつ「情報」すなわち「データ」は、まさにその企業の「資産」です。
しかしながら、その情報は社内のいたるところにちりばめられていることがほとんどです。
「自社の資産を見つけること」、そして「その資産をいかに活用できるか」がデータ活用プロジェクトのキモとなります。
「自社でどんなプロジェクトを開始していこうか迷っている」「プロジェクトの進め方が分からない」といったお悩みはぜひエスシードにご相談ください。