今回はホテルや旅館といった「宿泊業」のデジタル化・DXはどのように進めていけばよいのかについて解説していきたいと思います。

人手不足や収益の悪化に悩む宿泊業には、デジタル化を進めていくことが非常に大きなポイントになってきています。

今回の記事では、宿泊業のデジタル化の課題やメリット、進め方などを解説していきますので、宿泊業の経営者や支配人といった方のお役に立てれば幸いです。

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宿泊業が直面している課題とは?

近年、日本の宿泊業は大きな課題に直面しているとされています。

例えば、以下のようなことが挙げられます。

1. 人手不足
2. 言語の壁
3. スタッフの高齢化
4. 競争の激化
5. 施設の老朽化

日本の宿泊業界では、人手不足が深刻な問題であり、特に観光地や都市部ではシーズンによってスタッフ確保が難しく、サービス質や顧客満足度の低下につながることがあります。

また、新型コロナウィルスの流行前から外国人観光客が増えているにもかかわらず、多言語対応が不十分であることも問題とされています。

従業員の高齢化が進んでいる宿泊業界では、労働力不足が深刻であり、市場に参入する競合相手も増えて価格競争が激化しているため、利益率の低下が懸念されます。

昭和期に建設され老朽化した施設も多くなってきていますが、改善には多大な費用と時間がかかるため改修したくてもできない事業者も増えてきています。

特に、地方の宿泊業においては「需要の低迷」や「デジタル化の遅れ」といったことも課題とされており、業界全体として非常に大きな課題を抱えている状況になっています。

旅館やホテルをデジタル化するメリット・デメリット

そうした中で少しずつ取り組みが進んでいるのが、ホテルや旅館の様々な業務に対する「デジタル」の導入と活用です。

旅館やホテルをデジタル化することには、以下のようなメリットがあります。

宿泊業のデジタル化のメリット

✔ オンライン予約の利便性
✔ 顧客体験価値の向上
✔ オペレーションの改善
データの収集と分析

デジタルを活用することで、顧客はスマートフォンなどから手軽に予約でき、自動チェックインやデジタルサービスにより滞在が快適になります。

また、業務のデジタル化により従業員の作業が効率的になることや、顧客の嗜好や需要をデータとして把握することができるため、ビジネスの戦略やマーケティング、プロモーションなどに活用することができます。

一方で、デジタル化のデメリットも存在しています。

宿泊業のデジタル化のデメリット

✔ システムの不具合や故障
✔ セキュリティ問題
✔ 顧客との人的な関係の低下
✔ デジタルサービスに疎い顧客にとっては使いにくい

デジタル化した予約システムや入退室システムなどが不具合を起こしたり故障したりする可能性はゼロではありませんし、情報漏洩などのリスクもあります。

また、ほとんど人とのやりとりや会話のないホテルや旅館では、顧客体験が低下する恐れもありますし、年配の顧客にとってはデジタル化は逆に不便に感じる場合もあります。

こうしたメリット・デメリットをしっかりと検討しながら、デジタル化を進めていくことが重要です。

デジタル化によって売上は伸びるのか?

経営者や支配人にとって、「デジタル化が売上にどのような影響を及ぼすのか?」という点も気になることかと思います。

旅館やホテルのデジタル化は、売上に多大な影響を与える可能性があります。以下にその影響をいくつか挙げます。

  1. オンライン予約システムの利用による売上増加
  2. デジタルマーケティングによる売上増加
  3. デジタルサービスによる売上増加
  4. オペレーションの改善による売上増加

デジタル化により、顧客はオンラインで簡単に予約をすることができるようになります。

また、オンライン広告を実施することで、データ分析を通じて顧客に最適なオファーやプロモーションを提供することも可能になります。

さらに、自動チェックインやデジタルサービスの提供により、顧客の利便性が向上し、満足度が向上する可能性もあります。

このように、デジタル化は売上に対してプラスの影響を及ぼす要素が多いです。

実際、デジタル化に力を入れている東横イン(Toyoko Inn)といったホテルでは、新型コロナウィルス流行前の2017~2019年にかけては業績を大きく伸ばしており、「業務効率化」という視点だけではなく「売上」という視点からも成果を上げています。

旅館やホテルの業務でデジタル化が遅れている部分は?

旅館やホテルの運営には様々な業務が存在していますが、その中でも特にデジタル化が遅れている部分として以下のような業務が挙げられます。

宿泊業でデジタル化が遅れている部分

✔ 予約や受付のシステム
✔ 支払い・決済のシステム
✔ 管理・運営のシステム
✔ 顧客サービスの強化

セキュリティ対策の強化

中小規模のホテルや旅館では、電話やFAXで受付をしているところもまだまだあり、現金やクレジットカードなどの従来の支払い方法が主流で、キャッシュレス化が進んでいません。

また、ITツールを使った業務管理や顧客とのコミュニケーションに課題があり、セキュリティに対する対策も不十分であることが指摘されています。

こうした業務のデジタル化を進めていくことが宿泊業界の急務と言えるでしょう。

デジタル化を進めていくためのプロセスは?

では、実際にホテルや旅館のデジタル化を進めていく際に、どのような手順を踏んでいけばよいのかについて解説していきます。

以下のような手順を踏んでいくことが重要です。

1
目的を明確にする

まずは、デジタル化の目的を明確にしましょう。例えば、顧客の利便性向上、業務効率化、収益増加などです。

2
現状の分析

既存のシステムや業務プロセスを分析し、デジタル化の必要性や改善点を洗い出していきます。

3
導入するシステムやアプリの選定

目的や課題に合わせて、最適なシステムやアプリを選定しましょう。導入前には、複数のベンダーやサービスプロバイダーとの比較検討を行い、利用料金やサポート体制なども確認しましょう。

4
スタッフの教育・トレーニング

デジタル化によって、業務プロセスが変わる場合があります。そのため、スタッフにはシステムやアプリの使い方だけでなく、新しい業務フローやカスタマーサービスの在り方なども教育・トレーニングを行う必要があります。

5
顧客への提供

デジタル化によって提供できるサービスや商品が変わる場合もあります。顧客に提供するデジタルサービスや商品を明確にし、必要に応じて宣伝・広報を行いましょう。

6
モニタリングと改善

デジタル化を進めた後は、その効果をモニタリングし、改善点を洗い出しましょう。データ分析やフィードバックの仕組みを設けて、継続的に改善を行うことが重要です。

宿泊業だからといって、何か特別な手順を踏まないといけない、ということはありません。

これらの手順を踏んでいく上では、以下のようなポイントに注意する必要があります。

1. ゲスト体験の向上に焦点を当てること
2. 従業員のトレーニングや意識改革の徹底
3. ユーザビリティの高いデジタルツールを導入すること
4. データを収集し、分析・活用すること
5. 技術やシステムの選定に注意すること

なにより大切なことは「顧客が受け取る価値をいかに向上させるか」という点につきます。

デジタル化すること自体が目的になりがちですが、大切なのはあくまで「顧客にとって何が得られるのか?」という視点です。

また、新しいツールを導入する際は従業員の教育やトレーニングも丁寧に実施する必要があります。

導入するツールについては、自社のオペレーションや業務の進め方なども踏まえて、色々なツールを比較検討することが重要です。あまり値段が安いツールを使うと、不具合が頻発したりサポートが受けられなかったりすることもあるので注意が必要です。

ホテルや旅館にオススメのデジタルツールは?

ここからは、ホテルや旅館のデジタル化にオススメのツールを、業務別にいくつかご紹介していきます。

「予約」をデジタル化したいときに使えるツール・サービス

Rakuten Travel(楽天トラベル)

日本最大手のインターネット通販サイト「楽天」が運営する、宿泊予約サイトです。楽天ポイントの利用やクーポンの発行ができるなど、利用者にとってのメリットが多く、日本国内のホテル事業者も多く登録しています。

Jalan.net(じゃらんnet)

日本最大手の宿泊予約サイトで、日本全国の宿泊施設が登録しています。宿泊者向けの情報提供やクチコミの掲載など、利用者目線でのサービスが充実しています。

Booking.com

業界最大手の宿泊予約サイトで、日本国内のホテル事業者も多く登録しています。多言語に対応しており、海外からの宿泊者にも利用されています。(リンク)

Expedia

Booking.comと同様に、世界的に有名な宿泊予約サイトです。日本国内のホテル事業者も登録しており、海外からの宿泊者に向けての集客にも効果的です。(リンク)

「顧客管理」をデジタル化したいときに使えるツール・サービス

Salesforce (セールスフォース)

顧客データを中心に管理するCRM(顧客関係管理)システムで、世界中の企業が利用しています。ホテル業界でも、顧客情報の管理やマーケティング、販売管理などに利用されています。(https://www.salesforce.com/jp/)

Oracle Hospitality (オラクル ホスピタリティ)

オラクル社が提供するホテル向けの顧客管理システムで、予約管理や顧客情報の集約、レポート作成などが可能です。大規模なホテルやチェーンホテルなどで採用されています。(https://www.oracle.com/jp/industries/hospitality/)

Infor HMS

ホテルの予約やチェックイン/チェックアウトなどの業務を管理するシステムで、顧客情報の管理や財務管理なども行うことができます。ホテルの規模や種類に合わせてカスタマイズ可能です。(https://www.infor.com/ja-jp/solutions/hospitality)

客室の「カギ」をデジタル化したいときに使えるスマートキー

SALTO

電子鍵やカードキーを利用したオートロックシステムを提供するメーカーで、スマートキーにも対応しています。スマートフォンと連携して、解錠や施錠ができます。(リンク)

Igloohome

Bluetoothを使ってスマートフォンと連携し、暗証番号やQRコードを使って施錠・解錠ができるスマートキーです。バッテリー駆動で、電源を必要としないため、ホテルのリモート地などでも利用できます。(リンク)

akerun

「akerun」は工事不要のスマートロックで、ドアに貼り付けるだけで導入できます。スマホやICカードや社員証などを鍵として使うことができるため、顧客にとっても利便性が高いスマートキーです。(リンク)

「調理」や「配膳」をデジタル化したいときに使えるサービス・ツール

Waiter(スマレジ・ウェイター)

Waiter(スマレジ・ウェイター)は、株式会社スマレジが提供する、飲食店向けのオーダー管理システムです。タブレット端末を用いて、店内での注文や会計、在庫管理、売上分析などを効率的に行うことができます。また、メニューのカスタマイズや、特定の日時帯での割引設定など、様々な設定も可能です。(リンク)

https://waiter.smaregi.jp/

ORANGE POS

「ORANGE POS」は株式会社エスキュービズムが提供する、飲食業に特化したタブレットPOSシステムです。オーダー情報をPOSシステムに自動送信できたり、座席の予約、セルフレジ、テーブルオーダーなど、飲食業務のデジタル化に必要な機能が揃っているのが強みです。(リンク)

https://orange-pos.jp/advantage/

Airレジ オーダー

リクルートホールディングス株式会社の「Airレジ オーダー」は、顧客が自分のスマホでカンタンに料理を注文できるシステムです。Webブラウザから注文できるためアプリのインストールが不要です。メニューを覚えていない新人スタッフも初日から注文を取れるのがメリットです。(リンク)

https://airregi.jp/order/

Servi (サービィ)

Serviは、自律走行型の配膳ロボットで、ソフトバンクロボティクスが2020年から販売を開始しました。Serviは、注文を受けると自動的に料理を取りに行き、テーブルに料理を運びます。周囲の状況を認識し、障害物を回避しながら自律走行することができます。(リンク)

https://www.softbankrobotics.com/jp/product/servi/

PEANUT (ピーナッツ)

中国のKEENON社が開発したPEANUTは、料理の配膳から、テーブルを巡回しての下膳など、様々な業務を行います。ターニーベーカリーカフェなどの日本の飲食店でも導入されています。(リンク)

https://www.tanico.co.jp/product/kitchen-plus/peanut/

JPS ROBOT

「JSP ROBOT」は料理の配膳からテーブルを巡回しての下げ膳まで対応してくれるロボットです。4人分のお料理を一度に配膳する力があり、4時間の充電で10時間稼働できます。幸楽苑やはなの舞といった飲食店での導入実績があります。(リンク)

https://jsprobot.com/

「清掃業務」のデジタル化に使えるツール・サービス

DAYナビ

株式会社コンフォートが開発した「DAYナビ」は、清掃業に特化した使いやすく効果的なアプリです。
フロントからの指示変更や特別な消臭指示なども入力・表示でき、ホテルも清掃作業員も伝達に費やしていた時間を効率化できると同時に「言った言わない」といったヒューマンエラーを防ぐことができます。

https://daynavi.jp/

Staysee清掃アプリ

ステイシー株式会社が開発した「Staysee清掃アプリ」は、清掃業務を効率化するためのアプリです。チェックイン・チェックアウトの作業中でも、清掃状況が把握できたり、忘れ物や設備不良の確認が二度手間、三度手間になるのを解消するのに役立ちます。

https://staysee.jp/cleaning/

Li-nen V2 (リーネン V2)

株式会社ナバックが開発した「Li-nen V2」は、宿泊施設の清掃スタッフが使用するモバイルアプリケーションで、清掃スケジュールの作成や、チェックリスト作成、宿泊客からの要望や、清掃スタッフ間の連絡などをスムーズに行うことができます。

https://www.navc2.co.jp/linen.php
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おわりに ~まずはできる部分から少しずつデジタル化を~

最後までお読みいただきありがとうございます。

今回は旅館やホテルといった宿泊業のデジタル化において、デジタル化のメリットや売上に対する影響、進め方、オススメのツールやサービスなどを一挙にご紹介いたしました。

デジタル化の導入にはメリットが大きいものの、一気に変えようとするとコストが大きくなりますし、社内や従業員に浸透させていくのも大変です。

まずは、できる部分から少しずつ始めていきましょう。

もし宿泊業のデジタル化でお困りのことがございましたら、ぜひお気軽にエスシードにご相談ください。