DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業は、大企業だけではなく中小企業にも増えてきています。

しかし、いざDXを始めたとしてもプロジェクトが上手くいかない場合や、そもそもの進め方がよく分からない、という声を聞きます。

DXという言葉は聞いたことがあっても、自社でどのように進めれば良いのか、どのような体制を整えれば良いのかを理解している企業が少ないのも事実です。

そこで今回は、社内でDXプロジェクトを推進する際の進め方の基本から、マネジメントをしていく際の考え方などを解説していきます。

この記事で分かること

✔ DXプロジェクトの特徴がわかる
✔ DXの進め方の全体像が分かる
✔ DXの取り組みをプロジェクト化するまでの流れが分かる
✔ DXのプロジェクトでのコツや注意点が分かる

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DXプロジェクトと一般的なプロジェクトとの違いとは?

まずは、DXプロジェクトとはどのようなプロジェクトなのかを、一般的なITプロジェクト(システム開発・パッケージ導入など)と比較をしながら見て行きたいと思います。

以下の表にある通り、DXプロジェクトは一般的なITプロジェクトとは「前提」や「進め方」が大きく違ってくる場合が多くなります。

ITプロジェクト(システム開発等)DXプロジェクト
プロジェクト
種類
システム開発/パッケージ導入/システム移行など新規サービス開発/業務支援AI開発など
課題の検討状況課題が明確(コスト削減など)課題が不明確(誰にどんな価値があるのかを決めていく)
解決方法方法論が明確(パッケージ導入/インフラ整備など)方法論が不明確(解決方法を決めていく必要がある)
構想段階での方向性「How」が中心 (製品選定やコストなど)「What」が中心 (誰に何を提供するのか)
一般的なITプロジェクトとDXプロジェクトの違い

例えば、システム移行や統廃合などのプロジェクトにおいては、取り組むべき課題は「コスト削減」であったり「旧システムのサポート終了によるリスク排除」といったように明確な場合が多いです。

それに対する解決策も、既製品のパッケージ導入や開発言語を切り替えるなど、取るべき手段が大体決まってきます。

一方で、DXプロジェクトではそもそも「何をする必要があるのか」から決める必要があります。

例えば、消費者向けのサービス構想策定作業の場合には、「誰に・どんな価値を・どのような形で提供するのか」といったことをゼロから考えていく必要があります。

いわゆる、「マーケティングの企画プロセス」と同じ考え方やプロセスが必要になってきます。

基幹系システムのように「既存システム」や「既存業務」をベースにするのではなく、「世の中の流れはどうなっているのか」「どのような価値を顧客に提供するべきか」ということを徹底的に考えた上で、それを形にしていくプロジェクトを進めていく必要があるのです。

よって、どのようにDXを構想するか、という「構想段階」が非常に大切になります。
よくありがちな「プロジェクトが進んできて、大変になってきたら追加で予算や人員を投入すれば良い」というような考え方では上手くいきません。

関連記事
DXを構想・企画する段階でのポイントや、ビジョンや戦略の作り方について解説しています。

DXを円滑に進めるための7つのポイントとは?

では、DXをきちんと進めていくためにはどのようなステップを踏んでいけばよいのでしょうか。
以下のような手順で進めていくことが大切です。

DXの進め方

1. 課題認識(現状を正確に把握する)
2. ビジョン・戦略策定
3. 目標・KPIの明確化
4. 社内への周知・共有
5. 施策の立案・プロジェクト化
6. 社内環境の整備
7. DXの定着化と行動変容

それぞれのステップで、具体的にどのような行動をしていくかを解説していきます。

1. 課題認識(現状を正確に把握する)

まずは、自社が置かれている状況や現状、課題を正確に把握することが大切になります。

ビジネスの環境変化が早く、大きい現代においては、特に外部環境の変化に注目して自社の課題認識を行う必要があります。

一般的なITプロジェクトにおいては外部環境に対する考慮や将来の変化までを考慮に入れてプロジェクトを進行するケースは少ないですが、DXでは将来の外部環境の変化を踏まえて、革新的なアイデアによるサービスを生み出していく必要があります。

その際には、「PEST分析」と呼ばれるフレームワークなどを活用すると良いでしょう。

PEST分析とは?

外部環境を政治、経済、社会、技術の4つの要因に分類し、自社に与える影響を読み解く分析手法。
政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの頭文字。

2. ビジョン・戦略策定

課題の認識ができたら、次はDXの「ビジョン」や戦略」を作っていきます。

企業の活動の目的はDXを行うことではなく、DXを通じて自社の働き方やオペレーション、顧客体験価値を変革し、世の中に対して貢献をすることです。

そのためには、企業がDXの先にどこを目指すのかを明確に示す「ビジョン」がどうしても必要になります。

経営層や管理層がビジョンを明確に示し、語ることができないまま「とにかくDXをやりなさい」という指示を現場に出したとしても、現場では各部署がバラバラなことをやって「なんとなくDX」が繰り返されるだけになってしまいます。

データ活用においてもDXにおいても、それをやること自体が目的化してしまうことには十分に注意をする必要があります。

3. 目標・KPIの明確化

ビジョンと戦略ができたら、それを実現するためには具体的にどのような目標を立てる必要があるのかを決めていきます。

ポイントとしては、

● 具体的かつ納得できる目標になっているか
● 達成のためのスケジュールは明確か
● 目標の達成が現実的かどうか
● 全社的な目標と、各部門や個人の目標は紐づいているか

といった視点を考慮していくことが大切になります。

よくありがちなのが、経営層が全体的な大きな数字だけを打ち出し、細かいことは現場でやってほしい、という感じで目標に具体性がないままDXが進んでしまうことです。

また、その目標を達成することで会社や世の中にどんなプラスの影響があるのか、ということを社員の個人個人がしっかりと理解していないと、社員の側からすると「ただやらされている仕事」になってしまいモチベーションが出てきません。

よって、この「目標づくり」については各部門と協力しながら積極的かつ慎重に行っていく必要があります。

4. 社内への周知・共有

「ビジョン・戦略」「目標・KPI」が決まったら、それを全社的に周知していきます。

その際のポイントとしては、

● 事前に各部の部門長やキーパーソンとなる人物には内容を共有しておくこと
● 社員全員が集まる場を意図的に作ること
● 会社のトップ(社長)が自分の言葉でビジョンを語ること
● インタラクティブに進めていくことを伝えること(一方通行にならないように)
● 従業員ひとりひとりにとっても課題であることを認識してもらう
● 取り組みにおける「楽しい」部分もしっかりと伝えること

などが挙げられます。

DXは全社的な取り組みになるため、基本的には経営層や経営企画部のような部署がリードしてビジョンや目標を作っていくことが求められます。

ただし、それが各部門にとって達成できない目標や納得できない目標になってしまっては、DXを始めても現場から反発を受けてなかなかな取り組みが進みません。

よって、内容を事前にしっかりと各部の責任者等とすり合わせて、一通りの合意形成ができた上で全社共有をするのがベストです。

もちろん、誰にとっても完璧な戦略や目標を作ることは不可能ですが、「経営層は現場側の話や意向をしっかりと聞いてくれる」「気軽に相談できる」といった姿勢を見せることが非常に大切です。

5. 施策の立案・プロジェクト化

全社的な目標、各部門の目標、個人の目標が定まったら、それを達成するためのプロジェクトを立ち上げて運用していきます。

プロジェクトを立ち上げるときには、どの範囲でその施策を実行するのかの「スコープ」と、何を目的とした施策なのかの「タイプ」を決めていきます。

例えば、施策の「スコープ」には以下のようなものがあります。

施策のスコープ

● 全社的な共通案件
● 複数事業部門にまたがる案件
● 個別の事業部門単体での案件
● 実験的な案件(やってみないとスコープが分からない案件など)

DXを円滑に行うための「データ基盤の整備」や「デジタル領域での人材育成」などは全社的な取り組みになりやすいです。

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データ利活用やDXに欠かせない「人工知能」をビジネスで使いこなす「AI人材」について解説しています。

一般消費者向けのWebサービスやアプリ開発などは、各事業部ごとのプロジェクトになる場合が多いと思います。

また、DXはこれまであまり馴染みのないAI(人工知能)や、AR(拡張現実)、IoT(モノのインターネット)などの技術を使う場合が多くなるため、プロジェクト開始時点ではどの部が関わるべきなのかのスコープがはっきりしない場合が出てきます。

施策の「タイプ」としては以下のようなものが挙げられます。

施策のタイプ

● 社内業務(オペレーション)の変革
IT環境の整備
企業内変革 (意思決定プロセスや組織体制の変革など)
● 事業領域の開拓・拡張
● 既存顧客への新規価値・サービス創出

● 新規ビジネス・サービス創出

このように、DXには大きく分けると「企業の内部を変える」という取り組みと、「市場や顧客など外部に対する働きかけを変える」という2つのパターンがあります。

前者は「守りのDX」、後者は「攻めのDX」などと言われることがあります。

どこから手をつけるべきかという正解はありませんが、まずは施策を類型化して洗い出してみることによって、自社がやろうとしているDX施策がどの領域に多く、どの領域が少ないといったことを把握するヒントになります。

そうした整理をもとにして、「第1段階では既存業務の改善とIT整備を重視する」「第2段階では新規サービスの開発と新技術の実験を行う」といったように、段階に分けて施策を組んでいくと良いと思います。

6. 社内環境の整備

社内でいくつかのプロジェクトが立ち上がり、プロジェクトが進んでいくと様々な問題に直面します。

例えば、

● 社内の制度や権限が、DX推進の妨げとなっている
● 組織間の連携が協力的に進まない
● 業務やシステムが新しい方式に対応できない
● 各部門や個人が自発的に業務を進められていない

などの問題です。

目標が明確で、実施する施策の内容も具体性があり、それを実施できる予算も人材もあるのにプロジェクトがうまく行かないという場合は、社内の「環境整備」が不足している場合があります。

例えば、人事領域でのDXを目指す場合などは既存の評価制度や育成方針、育成カリキュラムなどでは対応ができないため、人事のあり方自体を見直す必要性や既存の制度やルールの緩和などを検討する必要が出てきます。

また、DXが全社的な取り組みになりやすいとは言え、プロジェクト1つ1つのやり方や進捗などを本社の企画部門などが細かくチェックをして指示だしをするようなやり方ではスピード感も出ずに事業部のモチベーションも上がりません。

中央は細かな指示だしなどをするのではなく、各事業部のプロジェクトが円滑に進むように社内制度を変えていったりプロジェクトのリソース確保やマネジメント手法の標準化などに取り組み、個々のプロジェクトを支援していくことが求められます。

7. DXの定着化と行動変容

DXプロジェクトが社内の各地で進行し、少しずつ成果が出始めてきた段階で大切になってくるのが、デジタル時代に即した新しい考え方ややり方をしっかりと社内に定着させることです。

データ利活用やDXの取り組みにおいては、「やってみたけど様々な壁にぶつかって、取り組みが続かなかった」「社内で従来のやり方や考え方にこだわる社員がいて、なかなか新しい取り組みが身につかない」といったことが起こり得ます。

その場合は、メンタルや感情に訴えたり、「こういうやり方でやってください」のようにお願いをしたとしても社員の行動は変わりません。

一番有効なのは、業務プロセスや意思決定プロセス、情報システムの中に新しいルールや業務の進め方を組み込んでしまうことです。

変化に対して抵抗する人の意識や考え方に対応するためのマネジメント手法のことを「チェンジマネジメント」と呼びますが、そうしたチェンジマネジメントを組織に広めていくこともDXには非常に大切になってきます。

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おわりに ~DXのプロジェクトは難しい、でも面白い!~

最後までお読みいただきありがとうございます。

今回は、DXを効果的に進めていくためのプロジェクトの理解から、プロジェクトを円滑に進めていくための考え方やステップについて解説していきました。

多くの企業がDXに取り組んでいますが、失敗してしまった事例も数多く存在します。こうした失敗をしないためにも、手順や組織作り、変革をする際のチェンジマネジメントなどが重要になります。

DXを成功させることは、今後の自社や組織において多くのメリットがあります。まずは、なぜDXを行うのかを明確にして、DXの推進をスタートしてみてください。