近年のデータ活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)においては、製造業やサービス業など業界を問わず、デジタル技術を活用した革新的なソリューションの開発や導入が加速しています。

特にデータ活用はDXにおいて重要な役割を果たしていますが、データ活用を社内で推進する際、デジタルスキルを持った人材不足経営層の理解不足現場からの抵抗などなど、「人の問題」が立ちはだかりプロジェクトが思うように進まないことがしばしば見られます。

今回はそうした「人の問題」に焦点を当て、企業のデータ活用推進においてどのような問題があり、それらをどう乗り越えていけばよいのかのヒントについて解説していきたいと思います。

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組織のデータ活用を阻む大きな理由とは?

組織のデータ活用を阻む大きな理由としては、大きく分けると「技術の問題」「お金の問題」「人の問題」といった3つが挙げられます。

技術の問題」は企業の経営やビジネスにおける課題に対して、それらを解決できる技術が存在しない、あるいは技術を使いこなすことができないといった状況を指します。

最近はデータ活用の効率化やプロジェクトマネジメントをサポートするツール、大量のデータを保管し分析できるクラウドサービスなど、データ活用のさまざまなソリューションが世界中で開発されており、企業の課題解決に活用できる何らかのソリューションは探せば見つかる状況です。そうしたテクノロジーを使いこなすことが難しい、ということも組織のデータ活用を阻む1つの理由になるでしょう。

お金の問題」は、既存の経営や事業を回すのに精一杯でDXやデータ活用に投資する資金(予算)がそもそもない、資金はあるが適切な予算組みをすることができず、なかなか話が前に進まない、といったことが挙げられます。

特に中小企業であればDXやデータ活用に対して、取り組みたい気持ちはあるものの予算がない、という状況も多いかと思います。

そして「人の問題」です。
上記の問題と比較して「人の問題」は解決が難しい問題です。

データを活用したソリューションを企画し運用するのは最終的には「人」ですが、デジタル関連のスキルの有無だけでなく、システムに投資する側や使う側のさまざまな思惑や感情など、論理だけでは越えられない壁が存在するからです。

したがって、社内でデータ活用を推進するには「人の問題」をいかにクリアするかがポイントになります。逆に言えば、「人の問題」を乗り越えることができれば「技術の問題」や「お金の問題」といったことも乗り越えやすくなります。

「人の問題」として立ちふさがる3つの問題

データ活用を社内で推進する際の「人の問題」として、以下のことが挙げられます。

「人の問題」としての3つの要因

1. データ活用・デジタル領域に詳しい人材の不足
2. 投資を判断する経営層の理解不足
3. システムを導入する現場の抵抗

それぞれを、詳しく見ていきます。

データ活用・デジタル領域に詳しい人材の不足

データ活用を推進するにあたり、まず問題になるのがデータ活用・デジタル技術に詳しい人材の不足です。

なお、ここでの「デジタル技術」とはAI(人工知能)、IoT、データ分析、クラウドなど、デジタルを使った企業変革で求められる技術全般を指します。(参考 総務省 令和3年 情報通信白書:業務におけるデジタル技術の活用状況)

データを活用してビジネスを変革するには、各技術について少なくとも指導や指示がなくても独力で行えるスキルが求められます。
しかし、優れたデジタル技術を持つデジタル人材は各所で引く手あまたであり、慢性的に不足している状況です。

総務省の報告によると、日本の企業においてはデジタル化を進める上での課題として「人材不足」を挙げる企業が67.6%と最も多く、米国・中国・ドイツと比べて非常に多い水準となっています。

人材不足に次いで「デジタル技術の知識・リテラシー不足(44.8%)」が挙がるなど、人材がデータ活用推進のポイントと認識している企業が多いことが分かります。

ミレニアル世代」や「Z世代」といった20代~30代くらいの層は、テレビゲームやスマートフォン、タブレットといったものの扱いや、デジタル関連のサービスを使うことに慣れているので「若い人がいれば社内のデジタル問題は解決する」と思われがちですが、あくまで「ユーザーとしてデジタルに慣れている」というだけであって、ツールを開発・運用することや、テクノロジーを使って新たなサービスを生み出すことができる能力を元々持っているわけではありません。

したがって、「人材不足」は一朝一夕には解決できない大きな問題として企業のデータ活用推進に立ちふさがります。

2. 投資を判断する経営層の理解不足

データを活用して既存の事業プロセスを変えたり、新しい製品やビジネスを生み出したりしようとすると、まとまった投資(資金)が必要です。

投資の最終判断をするのは経営層ですが、経営層がデジタル技術やデータ活用に理解がないと、なかなか投資を了承してもらえず、貴重な時間の浪費につながります。

もちろん、近年ではデジタル技術を使った変革に強いコミットメントを示す経営層もいますが、過去の自身の成功体験に基づいた旧態依然の考えに凝り固まり、新しい技術に理解を示さない経営層も少なからず存在します。

経産省のDX白書2021によると、日本企業においてはIT領域に見識のある役員の割合は米国に比べるとかなり少なく、日本の経営層のITに対する理解が不十分であることが分かっています。

(出典:経済産業省「DX白書2021」)

ITに理解のない経営層の場合、デジタル技術への大きな投資に難色を示すことが多いので、いかに彼らに投資の必要性を理解してもらうかが重要です。

アメリカや中国といった外国のIT企業と比較して、日本企業ではなかなか革新的なサービスが生まれず、外資系企業に既存の顧客やシェアを奪われてしまうといったことが起きているのも、こうした「経営層」の問題が少なくないと思います。

日本企業の場合は優秀な人材が本社の核となる部署や現場にいたとしても、ことある事に「上司や経営層の理解を得る・説得する・納得してもらう」という作業をしていかなければいけないためです。

本来、優秀な人材にはもっと価値を生み出してもらう業務に集中させたいところですが、優秀な人材が「上司の説得」のような業務に駆り出されてしまうと、彼らのモチベーションの低下や退職・転職といった悪循環に繋がります。

日本企業がそうして足踏みをしている間に、外国企業はどんどんサービスを開発し市場に投入してきます。

3. システムを導入する現場の抵抗

ようやく経営層の理解を得られて投資が了承され、デジタル技術を持った人材をそろえ、革新的な素晴らしいデータ活用システの構想を作り上げても、まだ安心できません。

最後に立ちはだかるのが導入先の現場の壁です。

業務効率化のシステムや、データ活用システムを作っても、ターゲットとしていた現場が使ってくれない、というのはよくあることです。

その大きな理由は、現場がシステムの必要性を感じていないことです。

現状でもうまく現場は回せているのに、なぜわざわざ新しいシステムを導入する必要があるのか、と反発されることもあるでしょう。

また、今の仕事のやり方を変えたくないという、変化を嫌う感情も無視できません。

現場がデータの移行をしなければいけなかったり、新しいシステムの使い方を勉強したり、マニュアルを読んだりなど、余分な仕事が増えます。

これまで自分たちがコツコツ改善してきた仕事のやり方に、こだわりや自負もあるでしょう。

あるいは、デジタルに自分の仕事が奪われると感じる人もいるかもしれません。このように、新しい技術に対する現場の抵抗感が、データ活用の推進の壁になる職場も多いのが実情です。

日本企業は特にこの「現場」という概念、感覚をとても大事にします。それ自体はとても良いことではありますが、世の中の動きが目まぐるしく変化する現代においては、1年前にやっていたやり方がどんどん通用しなくなるといったことも珍しくありません。したがって、働く側にとっても「現場は常に変化するもの」という認識が重要になりますが、そうした変化にすぐに対応できる人材もなかなかいないのが壁になります。

それぞれの「人の壁」を乗り越えるためのポイント

さて、ここまではデータ活用を社内で推進していくにあたり、「3つの人の壁」を紹介しました。

では、この人の壁をどのように乗り越えればよいでしょうか。

いくつかの考え方や例をご紹介します。

「人材不足」の壁の乗り越え方

データ活用に詳しい人材を確保する方法は、以下の2つが考えられます。

・自社の社員を教育して、データ活用の推進に必要な技術を持つ人材を育成する
・高度なデータ活用技術を持った人材を新規に採用する

自社内での人材育成」は、自社の業務プロセスに詳しいデジタル人材を育成できるなどのメリットはありますが、一人前になるまでに時間がかかる、デジタル技術の素養を持つ人材の見極めが難しい、といったデメリットもあります。

しっかりとした教育体系を作って、同時に多くの社員を教育すれば質と量を確保することも不可能ではありませんが、人材不足やスキル不足に困っている企業が自社の力だけで育成カリキュラムやプログラムを作成して運用するのは難しいでしょう。

幸い、近年はデータ活用やデジタル技術に特化した学習教材や研修会なども数多くあるので、外部のコンテンツを活用したり、それらの領域に特化したパートナー企業の力を借りれば効率的な人材育成も可能となります。

一方で、「高度な技術を持つ人材を新規採用する」のは、育成の時間を節約できるというメリットはありますが、報酬や待遇に気を使う必要があります。

高度なデジタル技術を有する人材は引く手あまたで、保有するスキルに見合った報酬や待遇を用意しないと見向きもされないでしょう。

そうかと言って、自社の給与体系を無視して特別に高い給与を支給するわけにはいきません。

そこで、自社と給与体系の異なる情報システム専門の関係会社を作り、そこで専門性の高い人材を採用して、自社(本社)に派遣するという方法なども考えられます。
こうした方法であれば、優秀な人材を引き留められる報酬を支払うことも可能です。

また、データ分析などの作業を請け負う外部の企業に、一部の業務を委託するという選択肢もあります。
長期的に付き合えるパートナー企業を見つけられれば、大きなプロジェクトも腰を据えて二人三脚で進められます。
ただし、パートナー企業に頼りきりになると、自社の人材のスキルが上がらない、ナレッジを蓄積できないといったことにもなりかねないので、並行して社内の人材育成も進めるとよいでしょう。

「経営層」の壁の乗り越え方

経営層にデータ活用の有用性や必要性を理解してもらいたいときは、外部から専門家を招いて講演会を開く、経営層を対象とした研修の場を設けるといったことが、有効な解決策です。

専門家の言葉を重く受け止める経営層は多いので、講演会で危機感を植え付けることで、データ活用に対する理解を深めてもらえます。

外部から講師などを招くと費用はかかりますが、自社の社員で賄うのも現実的には難しいので、経営層の理解を得るための必要なコストと割り切ることが必要です。

近年では、日本の大企業においても課長層や部長層といったマネジメントレイヤーに対して、こうしたデータ活用研修会やDX研修会を全社的な規模で開催するケースが増えてきています。

こうしたミドル層のデータ活用力やデジタル領域の理解が進めば、経営層を説得・納得させることや、現場に対して明確な指示を出すことにも繋がっていきます。

経営層のトップダウン型でDXやデータ活用の推進をしている企業であればまだ良いですが、そうではない企業においてはこうした中間層を巻き込んで底上げしていくことで、上層部に対しての意識づけや社内でのムーブメントを起こしていくことに繋がる可能性が高くなります。

現場の壁の乗り越え方

活用すれば必ず良い方向に行くはずのシステムを開発しても、現場が必要と感じないと受け入れてもらえないので、現場が納得して喜んで使ってもらえるよう地道な取り組みが必要です。

そのためには、いきなり大きなシステムを導入するのではなく、現場の悩みを解決する小さな案件をいくつか導入して実績を積み、現場の信頼を得るのがよいでしょう。

その際に、説明会を開催したり、メールや社内チャットで何度もアピールしたり、直接声を掛けて熱意を伝えたりすると効果的です。

特に、顔を合わせた直接の声掛けは意外と効果があり、「そこまで言うなら使ってみようか」と思わせやすくなります。

また、システム導入の経験が豊富なパートナー企業に推進を手伝ってもらい、現場に安心感を与え、使うまでのハードルを下げるのもおすすめです。

いくら画期的なデータ活用のシステムを作れても、それを使ってもらえなければ成果につながりません。

アナログな熱意やコミュニケーション、パートナー企業との協働など、地道に泥臭く普及を進めることも必要です。

なにより、「この会社のビジネスや業務をもっとよくして行きたい!」というビジョンや熱意の共有が最も大切になってくると思います。

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おわりに~データ活用を社内でどんどん推進するために~

最後までお読みいただきありがとうございます。

データ活用の推進にはさまざまな障害がありますが、大きな障害の一つが人の問題です。

「人の問題」の中には人材の壁、経営層の壁、現場の壁といった障害があり、データ活用を社内に推進するにあたっては、いかに人の問題をクリアするかがポイントと言えます。

自社だけで乗り越えようとすると難しかったり時間がかかったりするので、自走できるようになるまではパートナー企業の力を借りて、人の問題を解決しながらデータ活用を推進するのが効率的です。

当社では、お客様のデータ活用に親身になって二人三脚で取り組み、1社1社をオーダーメイドでご支援させていただいております。

データ活用でお困りの企業様やご担当者様は、ぜひお気軽にエスシードにお問い合わせください。