「デジタルトランスフォーメーション(以下DX)」が叫ばれる昨今において、企業の経営・ビジネスにおいて「人工知能(以下AI)」の活用は必須ともいわれています。

そんなAI時代において、企業はどのように経営戦略を立案し、AIをビジネスに活用していく必要があるのでしょうか。

今回は、「AIをどのように使えばよいか迷っている」「うちの会社にもAIを導入したいけど、どうしたらいいかわからない」といった経営者や担当者の方のために、ビジネスの中でAIを活用できる領域や、AIをビジネスに導入するメリット・リスクなどを解説していきたいと思います。

この記事でわかること

① : 企業でAIを活用するために必要な知識がわかる
② : AI活用のメリットだけでなく、「リスク」や「考慮するべき点」が理解できる
③ : AIを活用する際の実用例をイメージすることができる

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AIによって、企業経営の何が変わってきているのか?

昨今のビジネスにおいて、AIを活用している企業は確実に増えてきています。

実際に、各企業においてAIはどのように活用されているのでしょうか。

まずは、AIの活用による企業の「経営動向」や、経営において特にAIが力を発揮する領域について解説していきたいと思います。

AI活用による企業経営の動向 ~「導入」は進むが「活用」はいまひとつ~

これまでの「企業経営」といえば、経営者の「勘」や「知識」といった経営者としての経験が非常に強い影響を与えていました。

それが、デジタル技術の進歩により次のステップへ進もうとしています。

経営者としての直観ではなく、「データという根拠をもとにした経営=データドリブン経営」にシフトしつつあります。

蓄積したデータと、そのデータを基にAIを活用することで、より確実な意思決定へとつなげていくのです。

日本でも多くの企業が、DXの一環としてデータドリブン経営に着手しており、営業活動の分析や経営戦略の策定にAIを活用し始めてきています。

PwC Japanグループの調査によると、2022年時点で、日本国内の53%の企業が「AIを部分的、または全社的に導入している」と回答しています。

2021年に実施された調査によると43%であったことからも、AIの導入はさらに増加することが予想されます。

しかし、一方で導入企業のうち42%が「AIを導入したことによるROI(費用対効果)を正確に測れていない」と答えています。

つまり、「AIを導入したがうまく活用しきれていない」というのが日本国内の現状と言えるでしょう。

「AIを上手く活用することができない理由」としてよく挙げられるのは、

● AIを活用する目的が明確に定まっていないまま導入してしまった
● AIに学習させるためのデータの質が悪い
● 社員がAIの活用に前向きでなく、使ってくれない

といったものがあります。

いずれにしても、「導入」のハードルはかなり下がってきているものの、持続的に「活用」し「成果」を出していくことは決して簡単ではない、ということが現状です。

企業経営において、AIの導入が大きな影響を与える領域とは?

AIの導入によって、成果を上げやすい領域があることがわかってきています。

それが、以下に挙げるような領域です。

AIによって成果を出しやすい領域

✔ 雇用
✔ 生産
✔ マーケティング
✔ 価格設定
✔ オペレーション

それぞれ、どのようにAIを活用すると成果を出すことができるのかを解説していきます。

雇用 : ~人事・採用を「人の直観」から「データ主導」へ~

経営者として、「ひとりひとりの社員に対して、どのような業務を割り振ればベストパフォーマンスを発揮してくれるのか」「新しく入社したスタッフは、どうすればすぐ辞めずに活躍してくれるのか」といった「人材」に関する悩みは尽きないでしょう。

この「人事・採用」の分野にAIを活用することで、「適切な業務割り当て」や「自社にあった人材の採用」を実現できる可能性が高まります。

これまでの「人事・採用」といえば、人の直観により決まっていた部分が多かったことでしょう。

近年では、この人事業務のテクノロジー化を手助けする「HR Tech」が台頭しており、人事評価にAIを導入する企業が増えてきています。

上司や人事担当の感情や直観ではなく、その人の実績を基に、一定の基準で公平な評価を行えるようになります。

特に米国ではこのAI人事が浸透しており、Grand View Research社の調査によると、米国内のHRTechの市場は2021年時点で193億ドル(日本円に換算すると2兆5千万程度)の市場規模であるとされており、非常に大きな市場規模であることがわかります。

一方で、「一定の基準」であるアルゴリズムが本当に公平なのか、ということも課題点として挙げられます。

事実、ニューヨーク市では「AIによる人事評価のアルゴリズムを第三者により監査すること」が義務付けられてます。

社員のパフォーマンスをすべて「データ化する」という作業はとても難しいため、まだまだ発展途上な領域ではありますが、人手不足に悩む企業にとっては「人事領域の効率化」は非常に大きなテーマになるでしょう。

生産 : ~工場自体が「学習」してものづくりを行う~

工場などの生産現場においては、どうしても人間でなければ判断ができないような作業が多く存在しています。

例えば、ベルトコンベヤーなどに流れてくる「不良品」をスタッフが1つ1つ目視したり、触ったりして確認するという作業です。

こうした作業において、「画像処理」を行うAIを活用するケースが増えてきています。

AIがベルトコンベヤーを流れてくる大量の部品や食材といったデータを学習することで、通常とは異なる「不良品」をいち早く検出できます。

静岡でカツオやマグロの販売・加工を行っているマルミフーズの工場では、マグロの目利きにAIを利用する試験を実施したところ、熟練の目利き職人と比較して85%という高い品質判定を実施できました。

ボトルネックを解消できるだけでなく、自動化できる範囲が増えるということは、少ない人員で高い生産性を確保できることになります。

マーケティング : ~顧客ひとりひとりに対して最適なアプローチを~

AIの活用が広まっている領域として、マーケティングにおける「ターゲティング広告」や「クリエイティブデザインの制作」といったことが挙げられます。

有名なのは「Amazon」や「ネットフリックス」といったサービスでの「あなたにお勧め」という訴求のやり方です。

例えば、ネットフリックスでは同じテレビドラマであっても、視聴する人の好みに応じて番組の「予告編」の内容を変えて配信しています。

「恋愛好き」な人にはそのドラマの「恋愛シーン」をメインで切り出したり、「アクション好き」に人には「アクションシーン」をメインで切り出したりして、それぞれのユーザーの志向に合致するような「お勧め」の仕方をしています。

また、ワインの通販を行ってるエノテカ・オンラインでは、ユーザーの好みをAIが分析し、「あなたへのおすすめワイン」をレコメンドすることで、売り上げが1.5倍に伸びたとのことです。

このように、現代では顧客の価値観が多様化し、様々なニーズに企業が対応しなければ生き残れないという中で、AIの力を借りてマーケティングを行うことが非常に重要となってきています。

価格設定 : ~数千個の商品のベストな「売値」をAIが決める~

「卸」や「小売」といった業態は、日々何千、何万という点数の商品を扱います。

そうした商品の「値段」をどのように設定するか、というのは経営者や店舗管理者にとっては非常に大きい問題です。

こうした「値決め」にAIを活用することで、適切な価格設定を実現するケースが増えてきています。

特に、小売店においては割引や広告といった戦略の立案についてもAIの活用が広まっています。

コンビニ大手のローソンでは、AIを活用することで賞味期限の短いお弁当や惣菜の在庫状況を判断し、適切な値引きタイミングと価格を設定することで、廃棄金額を2.5%削減することに成功しました。

こうした「商品ごと」に適切な価格をAIで決めていくという方法のほかにも、「顧客ごと」に適切な価格を決めていく手法もあります。

例えば、宿泊業であれば顧客の「住所」や「過去の宿泊歴」などのデータを活用することで、「遠方の顧客やリピーターに対しては宿泊費を下げる」といったことをAIが自動で判断し、顧客ごとに最適化された商品の「値段」を提示することができます。

オペレーション ~AIが問い合わせ対応し、コストを大幅カット~

これまでは人間が行っていたオペレーションも、AIを導入することで省人化、効率化を狙えます。

これまではオペレーターなどが顧客と直接対話をしていたコールセンター業務などをAIに置き換えることで、オペレーターの負担軽減や人員配置の効率化に大きく繋がります。

身近な例としては、「AIチャットボット」が挙げられます。

大手銀行である三井住友銀行では、2014年という早い時期からチャットボットを導入しています。

AIを活用することで、1件当たりの顧客対応コストを60円削減できただけでなく、オペレータの離職率を48%削減できたという大きな実績を残しています。

AIをビジネスに活用するメリット・デメリット・リスクは?

AIをビジネスに活用するためには、どのような効果があるのかを把握しておく必要があります。

ここでは、AIを活用するメリットやデメリット、おさえておくべきリスクを解説します。

AIを活用することによるメリット

まずは、AIを活用することによるメリットからご紹介します。

多くのメリットが考えられますが、以下の3点に絞って解説いたします。

① : 新たなビジネスの創出につながる可能性が広がる
② : より正確な「予測」が可能になる
③ : 「人材」に対するコストの効率化

メリット① : 新たなビジネスの創出につながる可能性が広がる

AIを導入することで、人間では気づけなかったデータの特徴や規則性、新しい側面を見つける可能性もあります。

それらの情報をうまく活用することで、新しいビジネスへの活用も可能です。

中国の大手ECサイトであるアリババでは、ECサイトへのAI活用をしていましたが、現在ではそのAIの技術を活用し、様々なビジネスを展開してます。

ECサイトにおけるAIの技術をさらに活用すべく、物流や金融だけでなく、配車サービスや天気予報など、多岐にわたるサービスを展開しています。

メリット② : より正確な「予測が可能になる

経営者にとって、ビジネスの情勢を前もって予測し、いち早く世の中のニーズを満たす商品をマーケットに投入したいと考えるのは自然なことです。

これまで、ビジネスにおいて将来を予測するような場合、手元のデータを「サンプル」として使用し、統計学を用いて「おそらく全体としてもこのような傾向になるのではないか」という大まかな予測を実施してきました。

一方で、AIは人間よりもはるかに多くの情報を処理できます。

この特徴は、多くのデータから未来を予測するような場面において非常に有用です。

人間が手作業で実施するよりも多くのデータを一度に処理できるAIであれば、より正確な未来を予測できるでしょう。

老舗料理店などを経営する「ゑびや」では、AIを活用した来客予想を導入した結果、来客数の的中率が約9割と高く、2022年には前年度の売り上げの4.8倍を達成しました。

メリット③ : 「人材」に対するコストの効率化

AIを導入して作業を自動化することで、「人材」に対するコストを効率化することができます。

特に、「人手不足」に悩む業界や企業においては、AIは大きな力を発揮します。

業務時間の短縮や省力化をすることで、従業員に対する負担を減らしたり、業務時間の短縮などを狙えます。

大手スーパーのライフコーポレーションでは、同スーパー内の大量の商品の発注作業に多くの時間がとられていました。

各商品の売り上げを予測するAIを導入することで、発注にかかる時間を年間で15万時間分削減できたと発表しています。

単純に、時給1000円のパートやアルバイトに発注作業を15万時間させた場合、「1000 × 15万 = 1億5000万円」ということで、年間で「1億5000万円」ものコストがかかっていることになります。

仮に、AIを開発・導入する費用が1億5000万円以上だったとしても、数年あれば十分に回収できるだけのコスト削減効果になります。

AIを活用することによるデメリット・リスク

AIを導入することに関して、必ずしもメリットばかりとは限りません。

AIに対するリスクやデメリットをしっかり抑えることが、導入成功への第一歩です。

主に以下の視点で解説いたします。

① : 必ず「成功する」とは限らない
② : 費用が予想できない
③ : 導入・活用は長期的に見る必要がある

リスク① : 必ず「成功する」とは限らない

まず、AIの導入は「必ず成功する」とは限らないことを認識する必要があります。

残念ながら、現代のAI技術は万能ではなく、人間の業務をすべて代替できるほどの機能を有していません。

また、AIを活用できる領域は企業によって異なります。

そのため、多くの企業ではAIの導入が効果的であるかを検証する「PoC(実証実験)」を実施しています。

その結果が良ければ本格的に導入するのですが、多くのAIプロジェクトはこのPoCで想定以上の結果が出せず、PoCを繰り返したり、導入できずに終了したりします。(世の中には「成功例」はたくさん出てきますが、それ以上に存在する「失敗例」はなかなか出てきません)

このように、失敗する可能性もあることを念頭において導入を進めることが重要です。

リスク② : 費用が予想できない

AIの導入には、それなりの費用が発生します。

AIの開発や導入を業者に委託する場合の費用や、社内での様々な調整、AI導入後の思わぬコスト増など、様々な経済的リスクがあります。

主に、AIの導入には「開発費用」と「維持費用」が存在します。

開発費用には構想から構築、PoC(実証実験)が含まれます。

特に、PoCについては導入するAIや領域によって異なりますが、1ヶ月~半年程度の余裕を見る必要があります。

そのため、多くの場合はAIを導入するだけで最低でも数百万円程度の予算が必要になります。

どのようにAIを導入するのか?という構想次第で費用が上下しますので、注意が必要です。

また、維持費用としてはデータを保管しAIのアルゴリズムを走らせるクラウドサービスの利用料金や、AIの専門家などに対する人件費(委託費)がかかります。

特に導入直後であるほど、AIの学習に費用がかかりますので、多くの費用を費やすことになります。

AIを運用するコストが、AIを導入しなかった場合のコストを上回り続けるようでは、導入する意味は薄いといえるでしょう。

「AIに学習させるデータの質が悪く、当初の想定よりも成果が出なかった」といった例は珍しくありません。

AIが高い精度を出すためには、それなりの労力・費用がかかることを念頭に置き、費用対効果が高いポイントを見極めることが重要です。

リスク③ : 導入・活用は長期的に見る必要がある

一言で「AI」といっても様々な種類があるため一概には言えませんが、基本的には「明日から使えるAIは存在しない」と考えましょう。

AIの中でも、比較的短期間で導入できるものと、長期間の試行錯誤が必要になるものがあります。

例えば、チャットボットであれば製品を導入するだけである程度済む場合もあります。

その場合は1~2ヶ月もあれば導入できるでしょう。

一方で、需要予測や画像解析など、その企業やビジネスに応じたAIの構築が必須の場合、データの整備や分析からPoCまで半年以上の時間が必要であると考えましょう。

また、AIは「導入して終わり」ということはなく、導入後に「精度向上」するための施策が必要です。

この精度向上に事実上の終わりはありませんので、「AIを活用してどのようにビジネスを進めていくか」という中長期的な導入計画を立てることがAI導入成功への第一歩です。

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おわりに ~AIは「育てる」意識で活用する!~

最後までお読み頂きありがとうございます。

AIの進歩はめまぐるしく、すでに様々な分野でAIが活用されています。

一方で、「AIを活用する」と言っても手法は様々であり企業によって異なるため、AIの導入に「正解」は存在しません。

「どのようにAIを活用できるのか」を考え、自社のビジネスの核を見つけることが最重要です。

当社では、お客様のDXやデータ活用推進に親身になって二人三脚で取り組み、1社1社をオーダーメイドでご支援させていただいております。ぜひお気軽にエスシードにお問い合わせください。