データ利活用やデジタルトランスフォーメーション(以下DX)を検討している経営者であれば、社内でデータをどのように扱うか、ということが大きなテーマになってきます。
その際、データを適切に扱うスキルである「データリテラシー」が、すべての従業員に求められてきます。で
この「データリテラシー」については、「Excelでデータを集計する・可視化する」「基本統計量や標準偏差などを算出する」といったように、「実際に何をするのか」という技術的な視点から解説されることが多いです。
ですが、経営者にとっては、「データリテラシー」の技術的な手法よりも、「なぜデータリテラシーが必要なのか」「企業としてのデータリテラシーが向上しないのはなぜか」「データリテラシー向上によってどんなメリットがあるのか」といったことを知りたいはずです。
そこで、今回は経営者に役立つ視点で、上記のような疑問にお答えする「データリテラシー」を解説していきたいと思います。
✔ 「データリテラシー」の基本的な意味や考え方がわかる
✔ 「データリテラシー」が企業経営に必要となっている理由がわかる
✔ 「経営者」「従業員」にそれぞれ必要な「データリテラシー」がわかる
「データリテラシー」とは何か? データを価値に変えるスキル
まずは「データリテラシー」という言葉の意味について概要を説明いたします。
「データリテラシー」とは、広く言えば「データを扱う能力全般」のことを指します。
もう少し具体的に言うと、「データの集め方」「データの処理の仕方」「データの表現の仕方」「データの分析の仕方」「データの解釈の仕方」といった能力を指します。
✔ データを「集めるスキル」
✔ データを「処理するスキル」
✔ データを「表現するスキル」
✔ データを「分析するスキル」
✔ データを「解釈するスキル」
近年の企業経営において「データリテラシー」の必要性が高まっており、商品開発、マーケティング、組織作りなど企業活動の根幹を担う分野で大きく貢献しています。
企業が扱う「データ」は、これまで「財務データ」や「売上データ」「購買データ」などのように「数字」として定量的に表すことができるデータがほとんどでしたが、近年では「文章」「音声」「映像」「画像」といったような「定性的」な情報も「データ」として扱い、分析および活用ができるようになってきています。
したがって、「企業として」あるいは「経営者・従業員として」求められる「データリテラシー」の捉え方やスキルは、かなり広がってきていると言えます。
これまで、「データリテラシー」は「データの可視化方法」や「統計学を用いたデータの読み解き方」といったような「技術的な視点」から語られることが多くなっていました。
もちろん、データを扱う上でそうしたスキルが重要であることには変わりませんが、今後の企業経営においては「企業の課題解決のためにはどんなデータを集めるべきか」や「データをどうすればビジネスモデルに組み込めるのか」といったような、より深く企業経営の根幹に関わってくるような視点から考えていくスキルが重要になります。
以下では、「経営者に求められるデータリテラシー」と「従業員に求められるデータリテラシー」について解説をしていきます。
「経営者」に求められるデータリテラシー
「経営者」に求められる「データリテラシー」は、データを活用していくための「意思決定プロセス」を作り上げていく力です。
「意思決定」をしていく際は、通常は以下のようなプロセスを踏みます。
選択肢を集める ⇒ ヒントを得る ⇒ 選択をする
このプロセスの中身を、「勘と経験」(いわゆる「暗黙知」)ではなく、文章や数字などで表現する「形式知」に変えていかなければいけません。
「データ分析」とは、基本的には「数値」を扱い、そこから何かしらの示唆を得ていく行為のことを指します。
つまり「同じデータを使って同じ分析をすれば、同じ結果になる」ということになるため、「形式知」として表現することができます。
一方で、「長年の営業経験から、このような顧客に対してはこうしたセールスの仕方がよいと思った」というのは、その人個人が持つ「暗黙知」であり、人によって判断や答えがバラバラになってしまいます。
「データ」を活用した「意思決定」をしていくためには、この「暗黙知」になっている部分をできる限り「形式知」に変えていく必要があります。
上記の「セールス」の例でいえば、「どのような顧客に対してセールスをするか」という基準を、誰もが分かる形で「形式知」にする必要があります。
例えば「男性かつ40代で、これまで3回以上サプリメントを買ったことのある人に対してセールスを行う」というような形です。
そうした「意思決定のための基準」がしっかりと「形式知」になっていれば、「データ分析」をして上記に当てはまるような顧客を選び出し、ダイレクトメールを送ったり電話をかけたりするという「施策」につなげることができます。
ところが、いくら「データ分析」をしても、こうした「意思決定の基準」が「勘と経験」によるものでは、判断の基準が人によってブレてしまったり、具体的な施策までに落とし込むことができない、といった状況に陥ります。
これでは、「意思決定をする人(例えば「部長」など)に合わせてデータ分析をする」ということになるため、部長にとって都合の良いデータ分析の結果を提示したり、都合のよくない分析結果はあえて見せない、といったことになりかねません。
「データ分析をしているが、ビジネスの成果にはあまりつながっていない」という企業はこうした状況に陥っているケースが多いです。
「データドリブン」な経営を目指すためには、まずは経営者がこれまでの「意思決定プロセス」を見直して、しっかりと「データから判断・決断ができる状態」を作り上げていく必要があります。
「従業員・現場」に求められるデータリテラシー
一般社員や現場にとって必要な「データリテラシー」は「データ読解力」「データ分析力」「データ活用力」です。
その理由は、これら3つの力がなければ、データリテラシーを高めることができないからです。
「データ読解力」とは、「数値を読む力」であり、データの平均値、中央値や最頻値、また相関や偏差値などを見ていきながら、データが表す傾向や特徴などを読み解いていく力になります。
「データ分析力」とは、データ分析のツール等を使いこなしながら、自身で様々な視点から分析を行い、その結果を適切に表現できる力のことです。
「データ活用力」とは、適切なデータを集めることや、集めたデータ分析の結果をもとにして、ビジネスの成果につながるような施策を提案したり、ボトルネックを解消していく能力のことを指し、「データとビジネスをつなげるストーリー」を描く力のことです。
これら3つの力を備えた社員を育てていくことが理想ですが、特に重要となるのが「データ活用力」です。
「データ読解力」や「データ分析力」は、使用するデータがあらかじめ決まっていたり、分析をするためのテーマや期待されるアウトプットなどがある程度決まっている状態であれば、「外注する」といったことも可能です。
ですが、「自社の発展や課題解決のためには、どのようなデータが必要なのか?」や「データ分析の結果をもとに、実現可能な施策は何をするべきなのか?」といった検討や判断は、自社の社員が実施しなければなりません。
仮に、「データの読解と分析」ができる社員を社内で育成できたとしても、「データをどのように活用するのか」という「設計」と、データからどのような施策を打っていくかという「アウトプット」ができなければ、データを「ビジネスとしての価値」に変えていくことができません。
つまり、「データ活用プロセス」の「入口」と「出口」をしっかりと抑えることができる人材が社内に必要になるということです。
日本企業における「データリテラシー」の課題
では実際、日本企業は「データリテラシー」に関してどのような課題に直面しているのでしょうか。
日本企業は、そもそも「データ活用」にあまり取り組めていない、ということが調査から分かってきています。
総務省が発表している「令和3年 情報通信白書」の「デジタルデータ活用状況」によると、「個人データ」を活用している企業の割合が次のようになりました。
各国とも2019年度に比べて2020年度のほうがデータの活用度合いを伸ばす結果となっています。
GAFAのような巨大IT企業がデジタルによって莫大な収益を生み出していることや、世界的な新型コロナウィルスの影響で、デジタルシフトをせざるを得ない状況になったことも影響していると考えられます。
日本企業を見てみると、2020年度に著しく伸びてはいるものの、「積極的に活用している」及び「ある程度活用している」を合計しても5割弱にとどまっています。
米国やドイツの企業は7割、8割程度の活用度になっているため、それらと比べると大きな差があるのがわかります。
ここからわかることは日本企業の「データリテラシーの低さ」が、データ活用度合いの低さにつながっているということです。
同じく、同調査において「現在又は今後想定される課題や障壁について、当てはまるもの」を尋ねた結果が以下となっています。
日本企業においては「データを取り扱う(処理・分析等)人材の不足」を選択する回答が他国と比較して多くなっています。
つまり、「企業としてデータ活用をしたい意欲はあっても、それを任せられる人材がいないため、取り組みが進まない」といったことが伺えます。
実際、経済産業省が発表している「AI人材育成の取組」では、「IT人材の不足は、現状約17万人から2030年には約79万人に拡大すると予測され、今後ますます深刻化」とされています。これら人材不足が端を発し、企業のデータリテラシーが上がらないことに起因しているのです。
また、日本企業はデータ活用度合いが米国やドイツと比較して低いにも関わらず、「特に課題・障壁がない」と回答した割合が3か国の中で最も多くなっているのも気がかりなポイントです。
「データ活用を進めていく上で、何が問題・課題なのかを認識できていない」という可能性が読み取れます。
「問題や課題」をしっかりと認識して定義できなければ、どのようなデータ活用をするべきなのかも定まりません。
データリテラシー向上が経営に与えるメリット
「データリテラシー」を上げるためには、組織全体の取り組みが必要になります。
ここでは、「データリテラシー」を構成している要素を考察し、「データリテラシー」が上がることで企業経営に対してどのようなメリットがあるのかを4つのポイントから紹介します。
1. 誤った意思決定を防ぐことができる
2. プロセス改善による最適化
3. パーソナライゼーションの向上
4. 自律した組織を作ることができる
誤った意思決定を防ぐことができる
データリテラシーが向上することによって、得られる第1のメリットは、「誤った意思決定を防げること」です。
企業活動での様々な「意思決定」において、「正しい意思決定をする」というのは非常に難しく、正解がわからない中でビジネスを進めていかなければならない場面は多いはずです。
「データ活用」をすることによって必ずしも「正しい意思決定ができる」とは言えませんが、「誤った意思決定を防ぐことができる」とは言えます。
例えば、これまではあまりデータを見たり分析をしたりせずに、「勘と経験」で商品の発注をしているような小売店があった場合、「売れるだろう」という勘で実際にはほとんど売れないものを大量に仕入れてしまったり、値引きをするタイミングなどを誤って大きな赤字を抱えてしまうといったことが起こりえます。
商品の「発注量」や値引きの「タイミング」に関して、「これが正解」という最適解はありませんが、購買データなどを分析することによって顧客が商品を購買する傾向を把握することができれば、「データ」を元にして意思決定をすることができ、「施策が大きく外れてしまう」というリスクを抑えることができます。
もちろん、使用するデータがしっかりと「現実の出来事を表している、信頼できるデータかどうか」「傾向を把握できるだけのデータ蓄積期間やデータ量があるか」といったことが重要にはなりますが、データをもとにして様々な意思決定をしていくことが経営者から現場まで求められてきます。
プロセス改善による最適化
データリテラシーが向上することによって、得られる第2のメリットは、「業務プロセス改善による最適化」が行えることです。
「業務プロセス」とは、ひとつの目標に向かって進めるための、工程や手順の「一連の流れ」を意味する言葉です。
これをフレームワークやITサービスなどを活用し、最適化させることが「業務プロセスの最適化」です。
最適化されることで、業務の工数削減や業務の属人化を防ぐこと、業務の省人化などが期待できます。
ポイントは、データを用いて「業務プロセス」を改善していくためには、「業務プロセス」そのものが「測定できる形」で実施される必要があるということです。
例えば、1つの部品を作るのに何人が必要で、どれくらいの時間がかかって、何個生産できるのか、といった形で、プロセスが測定可能であり評価できる状態になっている必要があります。
製造業などでデータ活用の成果が出やすいのは、もともとの業務プロセスが整理されており、何をすると、どんな成果が出るのか、ということが見えやすいためです。
一方で、「接客」などのサービス業については、「誰が何をするとどんな成果がでるのか」というプロセスを「形式知」に変えることが難しく、「人柄」や「雰囲気」「経験」といったことにサービスの質が左右されることが多いため、データ活用によるプロセス改善をしていくためには工夫が必要になります。
パーソナライゼーションの向上
データリテラシーが向上することによって、得られる第3のメリットは、「パーソナライゼーション」が行えることです。
「パーソナライゼーション」とは、顧客やユーザーに対して、ひとりひとりに合うコンテンツや機能を提供することを意味します。
「インターネットの検索結果」や、「ECサイトおすすめ商品」、「動画視聴サービス」など、ネット上のあらゆるものが消費者の好みに合わせてパーソナライズされてきています。
なぜ「パーソナライズ」が必要かというと、顧客が商品やサービスから受け取る価値を最大化でき、顧客との長期的な関係を築くことに貢献するからです。
データリテラシーを向上させることで、パーソナライゼーションが実現可能になり、マーケティングの効率化、顧客満足度向上、顧客との関係構築、潜在顧客の獲得へとつながります。
「パーソナライゼーション」にあたって、もっとも重視されるのは「データ」です。
「デモグラフィックデータ」「行動データ」「コンテクストデータ」などを集めることで、より訴求性の高いパーソナライゼーションが行えます。
自律した組織を作ることができる
「データリテラシー」が向上することによって得られる第4のメリットは、「自立した組織を作ることができる」点です。
日本企業(特に大手企業)は、これまでベンダーやシステムインテグレータなどの外部企業に、システム開発やデータ活用を丸投げしてしまうことが多く、「投資の割には思ったような成果が出ない」「自社にノウハウが溜まらない」といったことが大きな課題となってきました。
自社の社員の「データリテラシー」が向上すれば、「自社にとって本当に必要なデータ活用とは何か」の定義がしっかりと行えたり、データ活用において「自社で実施する部分」と「外部に任せてよい部分」の「選別」が行えるようになるため、成果を上げつつコストを削減し、自社にノウハウを溜めていく、という取り組みができるようになります。
近年では、大手企業がこうした「データ活用人材」を自前で育成して「内製化」する動きが加速してきているため、そうした投資に見合う効果が期待できることを多くの企業が認識してきているということが言えるでしょう。
おわりに~「データリテラシー向上」は経営者がカギ~
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回は、「データリテラシー」について、「経営者」として知っておきたいポイントや、企業経営に役立たせるためのポイントについて解説いたしました。
「データリテラシー」が果たす役割は、近年の企業経営においては増々重要性を増していると言えます。
ただ、すべての従業員が一律で同じスキルを身に着ければよいというわけではなく、基本は抑えつつもポジションや職種によって身に着けるべきスキルが変わってきます。
特に、経営者は「社内でデータを活用していくための機運づくり」や「意思決定プロセスの整備」といったことをリードしていくことが求められます。
データ利活用についてお困りの際は、ぜひエスシードにご相談ください。