企業のデジタル化やデジタルトランスフォーメーション(以下DX)を実現していく際には、経営者などのトップ層の「ビジョン」が重要である、と言われることが多くなってきています。

しかし、中小企業にとっては、そもそも会社自体の「ビジョン」や「ミッション」のようなものが明確に存在しておらず、そうしたことを意識する間もなく日々の業務をこなしていかなければいけない、というのが実情ではないかと思います。

そうした中で、今回は「中小企業のデジタル化を進めていく際には、経営者のビジョンが本当に必要なのか」「もし明確なビジョンがなかったとしても、デジタル化を実現させることはできないのか」といったテーマで解説したいと思います。

世の中の書籍やコンサルタントなどに「ビジョンを持ちましょう!」と言われて困っている中小企業の経営者の方などに参考になりましたら幸いです。

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なぜDXに「ビジョン」が求められるのか

そもそも、なぜ「DX」に「ビジョン」や「ミッション」といったものが求められるのでしょうか。

大きな理由の1つが、「ビジョンを持つことで、経営者や従業員が目指すべき方向性を共有し、目的を達成するためのステップを踏むことができる」という点にあります。

DXは、従来のビジネスモデルや業務プロセスなどを改善し、新たな価値を創造するために、デジタル技術を活用することを意味します。

こうした中で、ビジョンがあることによってトランスフォーメーションの成功に向けた取り組みがスムーズに進められることが期待できます。

企業がDXを進めていく際には、以下のような様々なハードルを越えていく必要があるとされています。

1. 従来の業務プロセスの再設計の必要性
2. データの品質と可用性の問題
3. 技術的な専門知識の不足
4. カルチャーの変化の必要性

こうしたハードルがたくさんある中で、企業としての方向性が見えなかったり、必要な情報が共有されなかったり、実現していくためのリソースがきちんと提供されないとしたら、DXの実現はなかなか難しくなるということがイメージできるかと思います。

これらの障害を克服するためには、「リーダーシップ」の重要性が高まります。

特に企業のトップは、従来のビジネスプロセスに対する認識を変え、技術的な専門知識を獲得していく必要があります。

ですが、中小企業の経営者は、こうしたデジタルに関すること以外にも、やるべきことがたくさんあります。

やりたい気持ちはあるけど、そんな大きなことはできない」「難しそうでよくわからない」といった感情になるのは自然なことです。

そこで、「ビジョンやリーダーシップなんか無くても、DXはできないのか?」と感じている経営者の皆さんに、それを解決する方法を以下でお伝えしたいと思います。

中小企業の「デジタル化」にビジョンは必要ない理由

企業が「DX」を実現していくためには、以下のようなステップを踏んでいく必要があるとされています。

出典 : 経済産業省 DXレポート2 中間取りまとめ(概要)

デジタイゼーション > デジタライゼーション > デジタルトランスフォーメーション」 という順番で基本的には進んでいくということです。

お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、中小企業の場合はそもそも「アナログで実施している業務」や「データ化されていない業務」などがかなり多いはずです。

例えば、以下のような業務です。

・手書きの帳簿や請求書作成
・紙媒体での契約書の作成や保管
・受注・発注業務の紙媒体での管理
・手書きのスケジュール帳やToDoリストの作成
・電話やFAXによるやり取り
・紙媒体での顧客情報の管理
・手作業での在庫管理や売上管理
・紙媒体での採用管理や労務管理

中小企業の場合は、「デジタルトランスフォーメーション」のような雲をつかむような話を進めていく前に、まずは目先の業務に対してなるべくデジタルを導入して、業務効率化や俗人化、人手不足を解消していくというのが大切です。

例えば、飲食店などで顧客の予約管理を「手書きの帳簿」で実施しているといったケースはまだまだ多いかと思いますが、そうした業務に「予約管理ツール」などを導入することで、アナログで実施していた作業をデジタルに置き換えましょう、ということです。

それを実現していくためには、大きな「ビジョン」や「目標」などは必要ありません。

単に、これらのアナログ業務の時間や手間、ミスや情報漏洩のリスクというデメリットに対して、デジタル化による業務の効率化や生産性向上、情報の正確性やセキュリティ強化などのメリットが上回る、というだけです。

「予約管理ツール」や「自動発注システム」「クラウド会計ソフト」などを導入するのに、「ビジョン」は必要ありません。導入する「メリット」「デメリット」を考えるだけで十分です。

むしろ、難しいことを考えている時間があるのであれば、目ぼしいツールをいくつかピックアップして比較検討し、見積もりを取ってしまったほうがよほど生産性があると言えます。

日本の企業はリソースに恵まれる大企業でさえ、まだまだ「デジタルトランスフォーメーション」と呼べるような段階には至っていない、と言われています。中小企業であればなおさらです。

業界の常識を破壊するような高度な「DX」を実現していくのであれば、経営者の「ビジョン」は不可欠になるでしょう。

ただ、これまで述べたような中小企業の現状では、「ビジョン」などをあれこれ考える前に、アナログ業務をなるべくデジタルに置き換えて、業務効率化や生産性の向上を目指したほうが、成果が出やすいということになります。

これが、「中小企業の「デジタル化」にビジョンは必要ない理由」です。

では経営者はデジタル化のために何をすればよいのか?

では、会社のデジタル化のために経営者は何をすればよいのでしょうか。

経営者の方に特に意識してもらいたい点は以下になります。

1 . 従業員の業務の進め方を観察する
2. ミスが多い業務や業務プロセスが煩雑になっている部分を理解する
3. 業務のやり方を変えてよい部分と変えられない部分を分けてみる

1 . 従業員の業務の進め方を観察する

まず、自社の従業員がどのような業務をしていて、どのような進め方をしているのかを観察してみましょう。

あまり細かい部分まで見る必要はありませんが、経営者が自社の従業員の業務内容や業務の進め方をあまり理解していない、ということは割とあります。

そうした中で、「そもそもこの業務は何のためにやっているのか」「なぜこの業務にこの人数が必要なのか」「もっと効率よく回せる方法があるのではないか?」といったことが浮かんでくるかと思います。

そうした「疑問に感じる業務」を見つけることが、まずは自社の「デジタル化」を進めていく第一歩になります。

2 . ミスが多い業務や業務プロセスが煩雑になっている部分を理解する

次に、ミスが多い業務や業務プロセスが煩雑になっている部分を見つけていきましょう。

経営者自身が自分の目で見ることも大事ですし、従業員に少しヒアリングしてみてもよいでしょう。

特に、予約管理や在庫管理、受発注といった事務処理でのミスや、飲食店やホテルなどでの注文ミスや配膳ミスなどが多い場合は要注意です。

業務のミスが起こるのは、従業員のスキル不足や意識の問題といったこともありますが、「ミスが起こりやすい業務フロー」になっている可能性が大きいです。

ベテランではできるが、新人ではできない」といった業務や、「集中しているときはできるが、集中していないときはできない」といった業務は、「人のスキルや意識・心理」といったものに依存しすぎている可能性があります。

パートやアルバイトなどが多い業種(飲食・宿泊・介護など)では、ベテラン社員の経験やスキルはもちろん頼りになるかとは思いますが、「どうしてもその人でなければできない仕事」というのは少ないはずです。

そうした業務に「デジタル」を導入することによって、「誰がやっても一定の結果になる」「その時の気分や心理によってサービスの質が左右されない」といった「仕組み化」をすることができます。

3. 業務のやり方を「変えてよい部分」と「変えられない部分」を分けてみる

最後は、自社の業務の中でやり方を「変えてよい部分」と「変えられない部分」とで少し整理してみるとよいでしょう。

その際は、「経理業務」「受発注業務」「予約管理」「店舗オペレーション」といったように、業務のジャンルをいくつかに分けて、変えていきたい優先度の高い業務や、デジタル化による業務効率化の効果が高そうな部分から考えてみると良いと思います。

例えば、「店舗オペレーション」であれば今までずっと同じやり方でやってきた業務を、一度見直してみる、といったことです。

「お客様を待たせる場所はここで良いのか」「そもそも待たせないで入店してもらう方法はないのか」「食事のオーダーのやり方は今のやり方がベストなのか」「調理のプロセスはもっと改善できないのか」といったように、顧客の「入店 ~ 退店」に至るまでの流れや、それに伴う店舗側のオペレーションを見直して、「変えてもよい部分」と「どうしても変えられない部分」を分けてみましょう。

「変えてもよい部分」についてはデジタルを導入できるチャンスです。

例えば、これから店舗に入店してもらう顧客には、必ずしもお店の前で待ってもらう必要はない、と判断できるのであれば、事前に予約券を発券して自分の順番になったらスマホに通知が来るようなシステムなどを導入し、店舗の外での混雑を避けることや、顧客にとっても列に並ぶ時間が無くなる、といったメリットがあります。

ただし、デジタルを導入しても売上が伸びずに導入コストや維持コストのほうが大きくなってしまうのであれば本末転倒ですので、コストのほうが明らかに大きいと判断するのであればデジタルを導入しないという選択肢も1つの手です。

このように、自社の業務をまずは改めて理解することや、見直してみることを通じて、デジタル化の効果が大きそうな部分や、生産性が向上しそうな部分を経営者自身が見つけていくことが重要になります。

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おわりに ~デジタル化にビジョンはいらないが観察力が必要~

最後までお読みいただきありがとうございます。

今回は、中小企業がデジタル化を進めていく際には、経営者が壮大なビジョンなどを語る必要性は低く、それよりも自社の業務の現状をまず把握してみましょう、ということをお伝えいたしました。

中小企業のデジタル化は、まずは無料で使えるツールやトライアルなどを試してみてから、デジタルのメリットやデメリットなどを実際に体感していくことが大切になります。

もし「デジタル化」にお困りの際や、お悩みの際はぜひお気軽にエスシードにご相談ください。