日本の中小企業は、日本の企業全体の99.7%を占めるといいます。

しかし今、その日本を支える中小企業が、コロナや円高、物価高などにより、休業や廃業に追い込まれていくケースも増えてきています。

一体どうすれば、このような時代を乗り切れる強い組織にすることができるのでしょうか?

その答えの1つが、様々な分野から注目を集めるデジタルトランスフォーメーション(DX)にあります。

今回は、中小企業の経営者がDXに取り組んで行く際に「知るべきこと」と「やるべきこと」について解説していきます。

DXに悩んでいる中小企業のヒントになれば幸いです。

この記事で分かること

✔ 中小企業にもDXが必要となっている理由がわかる
✔ 自社のDX状況を把握するための考え方や方法がわかる
✔ DXを推進する際に経営者がやるべきことがわかる

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中小企業もDXを求められる理由

「DX」というと、大企業がやるべきものといったイメージを持っている方もいるかもしれませんが、実は中小企業こそDXを積極的に行うべきです。

ヒト・モノ・カネ」といったリソースの不足を補うDXは、業務効率化コスト削減人材不足の解消など多岐に渡るメリットがあるからです。

中小企業にもDXが求められている時代背景

中小企業庁が発表している「2022年版『中小企業白書』」によれば、新型コロナウイルス感染症の流行や原油・原材料価格の高騰等の影響により、今、多くの中小企業が窮地に陥っているといいます。

一方で、このコロナ禍で業績を伸ばした企業に目を向けると、一つのキーワードが浮き彫りになります。

それが「DX」です。

デジタル対応を進める企業は、収益の落ち込みをカバーできていることが明らかになっているのです。

米企業においては、GAFAはもちろん、DXを徹底した企業はコロナ禍によって収益を上げています

実を言えば、日本企業にも「デジタル化の優先順位の変化」が起きています。

こちらでも、中小企業庁が発表している「2022年版『中小企業白書』」をもとに、その変化について見てみます。下図は、東京商工リサーチの調査結果によるものです。

出典 : 2022年版 中小企業白書

感染症流行前である2019年から2021年においては、毎年徐々に優先順位は高まっていることがわかります。

事業方針におけるデジタル化の優先順位が高い」「やや高い」と考える企業は2割以上も増えているのです。

デジタル化の取組状況」を見てみても、感染症流行前から段階が進んだ企業が3割以上となっています。

出典 : 2022年版 中小企業白書

ここから読み取れることは、「企業が追求するべき価値観が変わってきている」ことにあります。

既存の企業形態ではなく、デジタルを取り入れた「DX」を進めることで、コロナ禍のような非常事態でも業績を上げることができるのが理由です。

とりわけ、リソースが限られた中小企業においてはDXがカギを握ります

リモートワークのインフラやEコマースの強化、デジタルマーケティングなどは、業務効率化や生産性の向上に大きく貢献するからです。

中小企業のDXの実態

では、実際にDXを行っている企業は、日本にどれくらいあるのでしょうか?

こちらは、総務省が発表している「令和4年版 情報通信白書」の「情報通信分野の現状と課題」によるものです。

出典 : 総務省 令和4年版 情報通信白書

日本企業を見てみると、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取り組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取り組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取り組んでいる」の合計値は約56%

対して米国企業は約79%と、日本企業の方が約2割も低いことがわかります。

特筆すべきは、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取り組んでいる」で、日本企業は約21%なのに対して米国企業は約36%と、企業の一部ではなく、企業全体でDXに取り組んでいることです。

また「DXを取り組んでいない割合」を見てみても、日本企業と米国企業のDXの実態に大きな差があるのです。

出典 : 総務省 令和4年版 情報通信白書

次に、「DXに取り組む目的」を見てみると、日本企業がDXに取り組む目的で一番大きいのは「生産性向上」で約75%でした。

一方で、もっとも低かったのが約37%の「顧客体験の創造・向上」で、中国企業のおよそ半分の数値でしかありません。

ここから推測できることは、日本企業はDXを通じて「顧客に対する価値提供」や「世の中に対する働きかけ」といった「」に対する視点をあまり持てておらず、「企業の中のことをどうするか」という視点に留まっているということです。

もちろん、労働人口の減少による生産性低下はすべての日本企業にとって大きな課題であることは間違いありませんが、「顧客」との向き合い方やサービス価値の向上などになかなか目が向いていないのが現状です。

DXまでの「道のり」を理解する

DXがまだまだ発展途上にある日本において、まず知るべきことが「DXを実現するまでの道のり」です。

DXを推進していくためには、まず自社が今現在、どの段階にいるのかを知ることが重要です。

ここでは、そのための考え方をご紹介します。

DXには「段階」がある

経済産業省が、2020年12月に発表した「DXレポート2 中間取りまとめ(概要)」では、「DX成功パターン」として、以下のような概念をあげています。

出典 : 経済産業省 DXレポート2 中間取りまとめ(概要)

第1段階 : デジタイゼーション

まず、第1段階として、「デジタイゼーション」があげられます。

デジタイゼーション」とは、アナログで行ってきた特定の業務をデジタル化することを指します。

これまで紙で作成していた資料や書類を電子化したり、連絡手段にチャットツールを使ったりします。

第2段階 : デジタライゼーション

第2段階は「デジタライゼーション」です。

デジタライゼーション」とは、デジタル化といった意味があり、デジタル技術を用いて製品やサービスの付加価値を高めることを指します。

個別の業務・製造プロセスをデジタル化し、部署単位ではなく、ワークフロー全体を横断的にデジタル化することです。

第3段階 : デジタルトランスフォーメーション

第3段階が「デジタルトランスフォーメーション」です。

デジタルトランスフォーメーション」とは、データとデジタル技術の活用により企業を変革し、競争力の優位性を保っていくことを指します。

デジタル化によって集めたデータをもとに、顧客のニーズを分析し、新たなビジネスモデルや新たなサービスを創出します。

経済産業省は、この3つのフェーズにおいて、「企業がDXの具体的なアクションを設計できるように、DXを3つの異なる段階に分解する」こと。そして、これらは「必ずしも下から順に実施を検討するものではない」と述べています。

つまり、今までアナログで実施していた業務をすべてデジタルに置き換えなければ、デジタルトランスフォーメーションにたどり着けない、という訳ではなく、着手できる部分や効果が大きい部分から手をつけながら、最終的にデジタルトランスフォーメーションにたどり着けばよい、ということです。

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DXを構想・企画する段階でのポイントや、ビジョンや戦略の作り方について解説しています。

「自社は、今どの段階にいるのか」を理解する

DXには、上記のように3つのフェーズがあることがわかりました。

その上で、自社が今どの段階にいるのかをチェックし、現状を把握することがポイントです。

自社がどの段階かチェックするには、次のフレームワークを参考にすると分かりやすくなります。

出典 : 経済産業省 DXレポート2 中間取りまとめ(概要)

自社が製造業の場合で、「業務のデジタル化」を見た時、製造装置が電子化されていれば、第1段階である「デジタイゼーション」のレベルにいることがわかります。

そこで働く職人の技術をデータ化できたり、製造プロセスをシミュレーションする製品が導入されていたりすれば、第2段階である「デジタライゼーション」のレベルにいることがわかります。

遠隔地にある製造装置に対して直接出力するビジネスモデルに変えることができれば、第3段階である「デジタルトランスフォーメーション」にいることがわかります。

このフレームワークをもとに、自社の業務やサービスをマッピングすれば、自社のDXレベルがおおよそどの位置にいるかの判断材料になります。

中小企業の経営者が絶対にやるべき3つのこと

中小企業がDXに取り組む上で重要なキーパーソンは、やはり経営者です。

コロナ禍でも業績を伸ばした企業は「全社的」にDXに取り組んでいるからです。

したがって、経営者自ら考え、行動を起こしていく必要があります。

ここでは、DXを進めていくにあたって「経営者が絶対にやるべきこと」を3つ解説します。

1. 自社の課題を正確に把握すること

DXに関してまずやるべきこととは、「自社の課題を把握すること」です。

内部環境」と「外部環境」を正確に把握することから始めます。

特に、ビジネス環境の変化が大きく、早くなっている現代においては「外部環境」を理解することはとても重要で、「現時点でのチャンス・リスク」と「将来的な視点でのチャンス・リスク」を把握することが求められます。

2. 共感されるビジョン・パーパスを打ち出すこと

経営者がやるべきこと2つ目は、DXを通じて実現したい「ビジョン」と「パーパス」を打ち出すことです。

ビジョン」とは「企業の展望・理想像・未来像」といった意味があり、他にも「経営方針」「事業展望」などの意味としても使われます。

DXにおけるビジョンとは、「DXによって自社がどこを目指すか」といった「自社の在り方」を指します。

「ビジョン」が企業の中核にあることで、デジタル化やDXに向けた様々なプロジェクトや行動に対して、共通する一貫した意図が共有されます。

一方、「パーパス」とは、「目的・意図・意思」などの意味をもち、ビジネスシーンにおいては「存在意義」や「」といった言葉として使われます。

DXにおいては、組織全体の足並みが揃わなければ成立しないので、「存在意義」を明確にする必要があるのです。

また、近年では「パーパス経営」と呼ばれるように、自社に関わるステークホルダーからいかに「共感」を集めることができるか、という経営のあり方が登場してきています。

DXの推進においても、それを実現することで「社会に対してどう貢献するか」を考え、経営者自らが積極的に発信していくことが求められています。

3. DXに対応できる組織に変えていくこと

DXを進めていくにあたって、経営者は具体的にどのように組織を変えていけばよいのでしょうか。

キーワードとなるのは、働き方・社内業務」「人材の多様性」「顧客対応」「ビジネスモデルの4つです。

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DX推進のための「組織作り」について「考え方」と「3つのパターン」を解説しています。

働き方・社内業務

各種業務をデジタル化・システム化することで、リモートワーク業務効率化時短勤務が実現します。

多様な働き方を可能にすることで、居住地や育児、介護などが理由でこれまで就業できなかった人も勤務可能となり、人材不足解消優秀な人材の確保につながります。

また、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)を導入することで、単純なパソコン業務を自動化することも可能になります。

これにより、長時間労働を抑制し、従業員をより付加価値を生み出す業務にシフトさせることで、労働生産性の向上が期待できます。

人材の「多様性」

日本の労働力不足が懸念される中、近年「ダイバーシティ」が注目を集めています。

ダイバーシティ」とは「多様性」を意味し、多様な人材を登用し活用することで、組織の生産性や競争力を高める経営戦略の一つです。

DXを進めていく中で、在宅勤務でもオフィス環境同様のコンディションで働ける仕組みを整えると、多様性のある人材確保・労働力不足の解消に繋がります。

また、企業の「イノベーション」には、その組織に多様な人材がいることが必要であるということが様々な研究から分かってきており、同じような考え方や価値観、性格の人を集めがちな日本企業がイノベーションをなかなか起こすことができない1つの要因と言われています。

つまり、企業を「ダイバーシティにする」ということが「目的」なのではなく、革新的なサービスや付加価値の高いサービスを世の中に提供するためには、必然的に「ダイバーシティにならざるを得ない」ということです。

顧客対応

特定の商品やサービスに関して顧客が受け取る価値を指す用語である「CX(カスタマーエクスペリエンス)」。

例えば、CXを改善するためにAIを導入することで、高度なデータ分析の自動化や顧客からのリアルタイムでの要望や質問への回答を行うことができます。

特に、近年は顧客のライフスタイルや価値観が多様化しており、顧客は様々な要望を持っています。

そうした中で、顧客ひとりひとりに丁寧に対応したり、商品やサービスをカスタマイズすることは「良いことだ」と分かっていても、コストの増大につながるためなかなか前向きになれない経営者の方もいらっしゃると思います。

ですが、「デジタル」「データ」を使うことによって、顧客ひとりひとりに対して高度にカスタマイズされたサービスや商品を、リアルタイムに届けることができる時代になってきています。

中小企業であっても、競争優位性を得るためには「顧客視点」がカギを握るのは間違いありません。

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ビジネスモデル

DXがもたらした新しい「ビジネスモデル」は、これまでの世の中の常識やルールを大きく変える力を持っています。

多くのユーザーから「薄く・広く・長く」収益を得ていく課金型のビジネスモデルである「サブスクリプション」。

様々な技術を一括でまとめて提供するサービス「プラットフォーム」。

顧客の属性を分析し、興味・関心・嗜好に合わせて自社のサービスを最適化していく「パーソナライゼーション」。

DXに対応できる組織にすることで、不確定なことが起こる現代でも、新しいビジネスモデルを創出し企業を成長させていくことができます。

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おわりに ~DXを通じて経営者の実力が試されている~

最後までお読みいただきありがとうございます。

今回は、「中小企業がDXに取り組む際に経営者がやるべきこと」について解説いたしました。

変化が激しく先行きの見通せない現代は、常に経営環境が変化します。

このような時代を生き残るためには、これまで以上に自律した組織運営が求められます。

リソースの少ない中小企業であればなおさらで、経営者はいかにDXを組織に浸透させることができるかが、カギとなるのです。

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