デジタルトランスフォーメーション(DX)を社内や組織で進めていく際に、「そもそも、何から始めればいいのかよく分からない」と困ってしまう場合が多いのではないでしょうか。
色々な企業の取り組みなどを見て、「うちの会社もSNSを分析してマーケティングに繋げよう」とか「購入データを分析してAIに取り込もう」といったように、明確な「目的」がないままいきなり「手段」に走ってしまう例がとても多いです。
DXに取り組むうえで真っ先にやるべきなのは、「構想を描く」ということです。
とはいえ、構想を描く上での考え方や進め方、重要なことはあまり語られていません。
今回は、そのDXの構想を描くために必要なポイントをご紹介していきたいと思います。
DXのジャーニーマップを描く
DXを推進するうえでまずやるべきことが、「DXの進め方の図を作る」つまり「ジャーニーマップを描く」という作業になります。ゴールまでの道筋をしっかりと立てることこそがDX戦略の主軸となります。
「ジャーニーマップ」とは、目的を達成するまでのプロセスを明確にしたもので、達成したいゴールに対しての行動とその結果を記載していきます。
マーケティングにおいても、自社の顧客の思考や行動を可視化する「カスタマージャーニーマップ」というものを描く場合がありますが、考え方は一緒です。(中小企業の場合は「カスタマージャーニーマップ」すらそもそも作ったことがない、という場合も多いかもしれませんが)
DXの「X」(トランスフォーメーション)は、日本語に訳すと「改革」という意味を持ちます。
自社のビジネスや社内プロセスを「改善」するのではなく、企業活動を抜本から考え直す「改革」が必要であるという点がまず重要です。
ジャーニーマップの作成のポイント
まずは自社がどのように「改革」をするのかというゴールを明確にする必要があります。
そのゴール(DXの目的)をはっきりと描いたうえで、そこまでの道筋(プロセス)を明確にする、というのがジャーニーマップ作成の目的です。
この際、実現不可能なゴールを設定することは避けます。到達できるゴールまでのプロセス、すなわち「実施していく事項」をベースにプロセスを決定することこそ、DXを成功させる第一歩です。
● ゴール(到達点)を定義する
● ゴールまでの道筋を明確化する
● 大風呂敷を広げないこと
注意点としては「データ活用やDXそのものを目的にしない」ということも重要です。
たとえば、「AIを使って店舗のオペレーションを自動化する」といったゴール設定ではなく、「特定の業務を自動化し、スタッフの残業時間を削減することで長期的なコストを下げる」といったようなゴールを設定します。
また、「戦略はしっかりと作り込んだが、それを実現できるテクノロジーやシステムがない・作れない」といった具合ではDXを推進することができません。
ビジネス企画側のスタッフだけでDXを構想しようとすると、テクノロジーのことがあまり分からないためこうした事態に陥りやすくなります。
構想段階から、しっかりとITシステムやデジタル領域のテクノロジーにも詳しいスタッフや部門を巻き込むことが重要です。
その際、日本企業はどうしても「システムありき」の議論になりがちのため、「どんなツールを使うか」といった「手段」の話からは離れて、あくまでも「自社の経営戦略や課題を軸に考えた上で、どのようにテクノロジーを活用するか」という流れを作ります。
自社の課題認識を行う
上記では、「ゴールを明確化することが重要」という解説をしましたが、その「ゴール」を正しく定義するためにはどうしたら良いのでしょうか。
正しいゴールを定義するために必要なことは、「自社の課題を正しく認識すること」です。
この「課題認識フェーズ」においては、以下のような点がポイントになります。
● 自社の現状や外部環境の変化を正しく認識できているか
● 自分たちのビジネスや業務のやり方に危機感や変革意識があるか
● デジタル活用による本質的な価値や意義を理解しているか
DXを進めていくためには、経営者から現場スタッフに至る全ての従業員が、将来を見据えた外部環境変化を正しく認識した上で、自社の課題やDXの必要性について十分に理解しているかどうかが求められます。
経営層が一方的にDXをやらせようとしたり、あるいは業務変革の必要性を現場しか感じていないような場合は、大きな壁に直面してDXの推進は停滞したり頓挫したりしてしまいます。
まずは、この「課題認識」を正確に行い、洗い出された「課題」を全社的に共有することで変革の風土を作っていくことが何より大切になります。
ここをおろそかにしてしまうと、異なる部署同士で利害が発生したときに着地点を見出すことができなかったり、経営層と現場での軋轢を生んでしまうことになりかねません。
「問題」と「課題」を分けて整理する
DXを推進する上で設定すべき課題は、「自社が成長するために障壁になっている事象・原因」を軸に設定します。
例えば、社員の残業が多いこと自体は「問題」であり、残業が増えていたり、定常化してしまったりしている原因、すなわち改善すべき事項こそが「課題」です。
たとえば、残業時間が増えているという問題に対して「残業禁止令」や「ノー残業デーの設定」を対策としても、作業の総量は変わらないため生産性は下がる一方です。これでは企業の成長は見込めないでしょう。
課題を設定する際には、実際にこの原因をしっかりと探ってみることが必要です。
・作業量が多く、手が足りていない
・業務フローが複雑で、問い合わせしないと進まない作業が多い(待ち時間が多く発生している)
・会議が多く、自分の仕事を整理する時間がつくれていない
などのように、解決すべき事象が見えてきます。
DXは、単に「これまで人間がやっていた作業を機械に置き換えればよい」ということではなく、自社の製品を生み出すためのフローや業務のやり方自体を根本的に見直すこととセットで考えていく必要があります。
課題の裏にある「強み」を見据える
また、課題を設定する上でもうひとつ重要な点は、「自社の強み」を考えることです。
もちろん、見えている「問題」を見つけて対応することも大事です。
しかし、その問題を解消した場合に自社の成長にどれだけ貢献できるのでしょうか。
顧客に対するジャーニーマップを作成する上で重要となる「課題」は、企業活動を改革(トランスフォーメーション)するために重要なポイントです。
● 自社の業務を正しく理解すること
● 自社が得意とする領域や顧客を明確にする
● 顧客への価値提供をする中での課題認識
自社の強みを最大限に活かすための障壁こそが「課題」であり、この課題を探すことこそが、DX(デジタルトランスフォーメーション)の第一歩です。
同じ業界だとしても、企業によって課題は様々です。
「自社だからこそできること」をきちんと見つけてそれを推進することがDXに求められます。
DX推進のための「ビジョン」と「戦略」を作る
自社の課題認識と共有ができたら、次は「ビジョン・戦略設計」のフェーズに入っていきます。
企業がDXをすることによって「どこを目指すのか」を組織の内外に明確に示すためには「ビジョン」が必要になります。
DXのビジョン作りのポイント
DXのビジョン作りにおいてポイントになることは、
● なぜ自社はDXやデジタル化をしていく必要があるのか (Why)
● DXによって、どのような姿を目指すのか (Where)
という点を盛り込むことです。
実際、これまでご縁があった企業においても、これらの議論がしっかりと行われないままに、やり方や技術の話にどんどん進んでしまうことが多く見受けられてきました。
「DXをやろうとして、データ活用の基盤システムを作っているのだけど、データがビジネスに繋がらない」といったような具合です。
もちろん、当事者は1つ1つの業務を真剣に取り組んでいるので業務としての形はある程度固まってはいるのですが、なぜそれが必要で、それをやることによって本質的に何を成し遂げたいのか、というビジョンを語ることができる人はほとんどいません。
DXを本当に浸透させていくためには、すべての当事者がこの「Why」と「Where」を理解して語ることができるように落とし込んでいく必要があります。
DXの戦略づくりのポイント
「ビジョン」を作ることができたら、その「対象」となる領域や、「体制」「役割」といったことを検討していきます。
● 自社のどの領域をDXの対象とするのか(製品・業務・人材など)
● どのような体制を取るのか
● 誰がどのような役割・責任を果たすのか
まずはこうした要素を検討しながら、DXを推進していくための初動を整えていくことが重要です。
リソースの潤沢な大企業であれば自社の様々な領域に対して一気にDXを進めていくことも不可能ではないかもしれませんが、リソースの限られる中小企業においては、「製品プロセスのDX」「業務プロセスのDX」といったように、DXを実施する領域をいくつかに分割して優先度の高いところから進めていくのが現実的です。
また、これらの「戦略」をどのように実行可能な「戦術」にまで落とし込んでいくかも見逃せないポイントになります。
その際には、
● 技術活用を想定した戦略を作る
● 戦略を技術に落とし込む
といったように、戦略を実現するための「技術面」も考慮しながら検討していくことが大切になります。
あくまで、「技術活用」を目的とするのではなく、自社の課題解決のために技術が必要になるのであればその技術について明確に理解した上で戦略を策定することが重要です。
自社が世の中に提供できる「価値」を見直す
ビジョンを実現するために、「価値提供」を考えることも非常に大切になります。
市場調査や顧客データ分析など、「ユーザーは何を求めているのか」といった「受け手の要望」を分析して事業価値や商品開発等に繋げている企業は多いかと思います。
一方で、「そもそも自分たちは何がしたいのか」「どのように世の中に貢献したいのか」といった「作り手の想い」をしっかりと言語化し、社内に共有できている企業はかなり少ないという印象を持っています。
DXは半年や1年で終わるような単発・短期の取り組みではなく、5年・10年あるいはそれ以上の期間をかけて推進していくべき取り組みです。その取り組みを継続するためには、なにより「作り手の想い」や「熱量」がなければなりません。(上からの指示で推進するDXはどうしてもこの「想い」や「熱量」が欠けてしまうことが多いです。)
そうした「価値」を見つけていくためには、以下のような「コンセプトメイキング」といった考え方を活用することが有効です。
おわりに〜DXはもっと面白くできる!〜
最後までお読みいただきありがとうございます。
DXを推進する上では、「構想をどう描くか」ということは非常に重要なポイントです。
また、「DXの構想」に正解はありません。
ただし、「押さえておきたいポイント」というのは確実に存在しています。
他社事例やDXのツールに翻弄されず、本質を見極める力がとても大切になってきます。
「やらせれるDX」ではなく、アイデアをどんどん出して形にしていくような「ワクワクするDX」をぜひ一緒に実現していきませんか??