日々、AIに関するニュースがメディアで報道されたり注目されたりする中で、「自社でもAIを活用できないだろうか?」と考えている中小企業の経営者や担当者の方も増えてきているかと思います。

ですが、「どんな業務に対してAIを活用できるのか?」「AIを導入する際にどんなことを検討すればよいのか?」といったことが分からずに、AIの導入が前向きに進まないといったことがあるかと思います。

今回は、そうした中小企業向けに「中小企業がAIを導入・活用する際のポイント」について解説していきたいと思います。

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中小企業のAI導入・活用はなぜ進まないのか?

日本の中小企業のAIの導入・活用は、様々な調査結果からもなかなか進んでいないとされています。

では、なぜ中小企業のAI導入・活用は進まないのでしょうか。以下のような理由が考えられます。

  1. 技術的なハードルが高い
  2. 経営者の理解・認識不足
  3. データの量・質の不足
  4. 規制や法律への対応の難しさ
  5. 長期的な投資効果の見通しの不透明さ

技術的なハードルが高い

中小企業がAIを導入する際に直面する技術的な壁の一つは、AI技術やデータサイエンスに精通した専門家の不足です。

例えば、平成31年の経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によれば、AI人材の需要と供給のギャップは2030年には12.4万人にも上ると試算されています。

専門家が少ないため、その人件費が高くなることがコスト面での負担となります。また、既存のITインフラとの互換性やセキュリティの確保なども課題となります。

経営者の理解・認識不足

経営者がAIの価値や導入による効果を十分に理解していない場合、導入に向けた意思決定が難しくなることがあります。

例えば、製造・卸・小売といったような業態において、在庫管理の効率化や需要予測の精度向上を目指してAI技術の導入を検討していた場合に、どのようなアルゴリズムやロジックがあれば、効率化や最適化を実現できるのかといったことのイメージが全く湧いてこないといったことです。

もちろん、ベンダーなどが販売している「在庫管理システム」などのパッケージツールを導入して運用することも可能ですが、いずれにしてもどのような仕組みで動いているシステムなのかをある程度は理解しておく必要があるでしょう。

AIを導入する際には、効果的な導入計画や適切な技術選択が求められますが、経営者のテクノロジーに対する理解・認識不足がこれらのプロセスを阻害することがあります。

データの量・質の不足

AI技術は、十分な量と質のデータがあってこそ効果を発揮しますが、中小企業は大企業と比べてデータの収集・蓄積が難しい場合があります。

例えば、スタートアップのECサイトは、Amazonや楽天といった大手企業と比べて顧客数が少なく、購買データが十分に蓄積されていないことがよくあります。このため、AIを活用したレコメンデーションシステムや需要予測の精度が大企業に比べて低くなる可能性があります。

また、データの整理やクレンジングにもコストがかかるため、データ活用が難しくなることがあります。

規制や法律への対応の難しさ

AI技術の導入に伴って、データセキュリティやプライバシーに関する法律や規制が適用されます。

しかし、国や地域によって規制が異なることや、新たな技術に対応した法律がまだ整備されていない場合があります。

さらに、AIによる自動生成された著作物の著作権や、AIを活用した医療診断に関する責任問題など、現行の法律では十分に対応できていないケースも出てきています。

こうした動きによって、法律や規制に違反しないようにリスク管理を行うことが必要になり、AIの導入や活用に慎重にならざるを得ない場合が出てきます。

長期的な投資効果の見通しの不透明さ

中小企業は、資金繰りやリソースの制約があるため、投資効果が短期間で現れないAI導入に対して慎重な姿勢を取ることがあります。

例えば、あるアパレル中小企業がAIを使って在庫管理や需要予測を行おうとした場合、AIシステムの導入費用や維持費用がかかりますが、それがいつ回収できるのか明確でないことが、導入をためらわせる要因となります。

さらに、AI技術の発展が急速であるため、どの技術に投資すべきか判断が難しいことも、導入の障壁となります。

例えば、ある飲食店の中小企業がチャットボットを導入しようとした場合、多くのチャットボットプラットフォームが存在しており、どれが自社に最適なのか判断が難しい状況があります。

経済産業省が2021年にが実施した「中小企業のAI活用促進に関する調査事業 最終報告書」では、中小企業における平均AI導入率は3%未満であると報告されています。また、「AIの導入を検討したことがない」と回答した企業が80%弱に上る、という結果からも、日本の中小企業のAI導入・活用は非常に難しい状況にあると言えます。

中小企業がAIを活用するメリットは?

中小企業がAIを活用する場合には、AIの「メリット」をしっかりと理解する必要があります。

ここでは、AIを活用することで得られる「メリット」をいくつか挙げてみます。

メリット① : 業務の効率化・生産性向上

AIを活用することで、従来の業務を効率化・自動化することができます。

例えば、AIを使ったチャットボットによって顧客からの問い合わせに24時間対応する体制を構築することや、AIを使った営業支援ツールで、顧客データや過去の取引履歴をもとに、商談の成功確率やクロージングタイミングを予測する、といったような様々な業務にAIを活用することができます。

メリット② : 高度な分析・予測能力

AIを活用することで、膨大なデータを高速で分析・処理することができます。

例えば、AIを活用した需要予測では、過去のデータや市場動向をもとに、将来の需要を高精度で予測できます。

また、AIを利用した顧客セグメンテーションでは、顧客の購買履歴やデモグラフィックデータをもとに、顧客を類似の属性や行動特性を持つグループに分類できます。これにより、ターゲティングされたマーケティング活動やパーソナライズされたサービス提供が可能になります。

メリット③ : 新しいビジネスモデルの開発

AIによるデータ分析や予測能力を活用することで、新しいビジネスモデルの開発が可能になります。

例えば、AI技術を用いた自動運転車を活用し、無人タクシーや配送サービスを提供するビジネスモデルなどは実際に日本各地で実験などが行われ始めていますし、IoTデバイスやセンサーから収集されたデータをAI技術で解析し、機械や設備の故障を予測することで、メンテナンス業務を効率化するビジネスモデルなどが挙げられます。

中小企業の業務の中で、AIを導入できる業務とは?

では、中小企業の業務の中で、どのような業務に対してAIを活用することができるのでしょうか。

以下のような領域からいくつかの業務の例を挙げて解説していきたいと思います。

  1. バックオフィス業務
  2. 顧客管理やマーケティング
  3. 生産管理や予防保全
  4. 人事管理や採用
  5. 購買管理や物流管理

バックオフィス業務 ~会計・契約・文書管理などを効率化~

経費処理、会計処理、ドキュメント管理といったような、どの企業にも共通するようなバックオフィス業務に対してAIを活用することで、業務効率化や省人化を図ることができます。

AIを適用・活用できるテーマAIが実施する内容
会計処理の自動化請求書や領収書のデータを自動的に入力・処理し、正確かつ効率的な会計処理を実現
経費精算の自動化従業員から提出された経費精算書類のデータ抽出や承認プロセスを自動化し、業務負荷の軽減や処理速度の向上が可能に
ドキュメント管理の最適化文書の分類や整理、検索が容易に。また、自然言語処理(NLP)技術を活用して、文書の内容を要約することも可能。
スケジュール管理会議やイベントのスケジュール調整やリマインダー送信を自動化
契約書類の自動検査契約書類や法的文書の内容を自動的にチェックし、適切な条項が含まれているか確認する。これにより、リスク管理の向上や業務の効率化に。

顧客管理やマーケティング ~顧客対応の自動化や高度なターゲティング~

AIを活用することで、顧客データを分析し、優良顧客を抽出することができます。

また、購買履歴や行動履歴から、顧客に適切な商品やサービスを提供することができます。

AIを適用・活用できるテーマAIが実施する内容
顧客セグメンテーション顧客を特定のセグメントにグループ化し、ターゲットに合わせたマーケティング戦略を策定する
顧客対応の自動化チャットボットや自然言語処理(NLP)技術を活用して、顧客からの問い合わせに対する迅速な対応を行うことができる
商品レコメンド購買履歴や閲覧履歴などのデータを解析し、個々の顧客に対するパーソナライズされたマーケティングが可能
広告最適化広告のターゲティングや配信タイミングを最適化し、クリエイティブやコピーのA/Bテストを自動化することで、最も効果的な広告を選定
ソーシャルメディア分析顧客の感情やトレンドを把握し、ブランドの評判や新たなマーケティングチャンスの発見が可能に

生産管理や予防保全 ~生産ラインや製品の品質をコントロール~

AIを活用することで、生産ラインの稼働状況や機器の稼働状況をリアルタイムで把握することができます。

また、機器の故障予兆を検知することで、予防保全を実現することができます。

AIを適用・活用できるテーマAIが実施する内容
予測保全機器のセンサーデータや過去の故障履歴を分析し、故障の兆候を検出。故障が発生する前にメンテナンスを行い、ダウンタイムを最小限に抑える。
生産ライン最適化生産プロセスを分析し、効率的な生産ラインの構成やスケジュールを最適化。生産コストの削減やリードタイムの短縮する。
在庫管理需要予測を行い、適切な在庫水準を維持し、在庫過剰や品切れを防ぐ。
製品品質管理製品の画像やセンサーデータを分析し、品質検査を自動化。検査の精度向上や作業効率の向上が実現。
エネルギー管理AIを活用してエネルギー使用パターンを分析し、エネルギー消費の最適化や省エネルギー施策を立案。

人事管理や採用 ~自社に合った人材や適切なジョブへのマッチング~

AIを活用することで、適正な人材を採用することができます。履歴書や面接データを分析し、応募者の適性やポテンシャルを評価することができます。

例えば、過去の採用成功者のデータを分析し、新たな採用活動計画に役立てるといったことが可能です。

AIを適用・活用できるテーマAIが実施する内容
職務適性診断応募者の性格や能力を評価し、適切な職種やポジションにマッチするかどうかを判断
採用面接の自動化チャットボットやビデオインタビューシステムを活用して、候補者との面接を自動化し、選考プロセスを効率化
人材マッチング社内外の人材データベースから適切な人材を特定し、適切なポジションやプロジェクトに割り当てる
従業員エンゲージメント分析従業員の意見やフィードバックを収集・分析し、従業員満足度やエンゲージメントを向上させる施策を策定
離職予測従業員のデータを分析し、離職リスクが高い従業員を特定。早期にリテンション施策を実施し、従業員の離職を防ぐ

購買管理や物流管理 ~物流や商品価格を最適化~

AIを活用することで、購買データや在庫データを分析し、需要予測を行うことができます。また、物流管理においても、ルート最適化や在庫管理の最適化を実現することができます。

例えば、小売店がAIを活用して、需要予測を行い、在庫を適切に調整することで、在庫過剰や欠品を回避し、売上を最大化することができます。

AIを適用・活用できるテーマAIが実施する内容
供給チェーン最適化供給チェーンのデータを分析し、在庫管理、輸送コスト、リードタイムなどの最適化を実現
価格設定AIを用いて市場状況や競合他社の価格、在庫状況などをリアルタイムで分析し、最適な価格設定を行うこ
仕入先選定仕入先の品質、価格、納期などの情報を評価し、最適な仕入先を選定
ルート最適化配送ルートやスケジュールを最適化し、輸送コストの削減や環境負荷を軽減
倉庫管理の自動化ロボットや自動化システムを利用して、倉庫内のピッキングや梱包作業を効率化し、人手不足などを解消

以上のように、中小企業はAIを活用することで、様々な業務領域の効率化や生産性向上を実現することが可能になります。

中小企業がAIを導入するためのポイントは?

最後に、中小企業がAIを導入するために大切になるポイントについていくつかご紹介していきます。

  1. AIを活用する目的を明確にする
  2. 自動化や効率化はAIでないと実現できないのかを考える
  3. 可能な限り自社開発はしない(パッケージソフトを使う)
  4. 導入するツールは自社の業務やスキルに合うかどうかを確認する
  5. 導入するAIのサポートサービスについて確認する

ポイント① : AIを活用する目的を明確にする

まず、AIを導入する目的を明確にしましょう。

どの業務を自動化・効率化したいのかを特定し、それによって得られる効果やROI(投資対効果)を評価してください。

目的が明確であれば、適切なAI技術やツールを選択しやすくなります。

AIの活用を目的にする際には、「SMARTの法則」といったフレームワークを活用するとよいでしょう。

「SMARTの法則」の各項目AI導入における例
S (Specific)
目標が明確で具体的であること
目標は、顧客管理システムにAIチャットボットを導入して、顧客からの問い合わせ対応の効率化と、個々の顧客の購買履歴に基づいた商品推奨機能を実現すること。
M (Measurable)
目標が測定可能であること
目標達成の指標として、AIチャットボット導入後の問い合わせ対応時間の短縮(例: 平均対応時間を30%短縮する)や、推奨商品機能による売上向上(例: 推奨商品による売上が全体の10%を占める)を設定する。
A (Achievable)
目標が達成可能であること
市場で利用可能なAIチャットボット技術や顧客の購買履歴を活用した商品推奨技術が既に存在し、導入が現実的であることを確認する。
R (Relevant)
目標が現在のビジネス状況や市場環境に適したものであること
顧客管理システムの改善は、現在のビジネス状況や市場環境において、顧客満足度向上や競合他社との差別化につながる重要な取り組みである。
T (Time-bound)
目標に期限が設定されていること
AIチャットボットの導入計画を3ヶ月以内に立案し、さらに6ヶ月以内に導入・運用開始を目指す。

ポイント② : 自動化や効率化はAIでないと実現できないのかを考える

AI導入前に、AI技術以外の方法で業務の自動化や効率化が実現できないか検討してください。

場合によっては、RPAなどのシンプルなツールやプロセス改善で十分な効果が得られることもあります。

AI技術が本当に必要かどうかを慎重に判断しましょう。

ポイント③ : 可能な限り自社開発はしない(パッケージソフトを使う)

中小企業の予算やリソースは限りがありますので、可能な限り自社開発は避け、市販されているパッケージソフトを利用できないかを検討しましょう。

パッケージソフトは導入コストや運用コストが低く、またサポート体制も整っていることが多いため、リスクが低減されます。

ポイント④ : 導入するツールは自社の業務やスキルに合うかどうかを確認する

AIツールを導入する際には、自社の業務や従業員のスキルに合っているかどうかを確認しましょう。

ツールが使い勝手が良く、従業員が習得しやすいものであれば、導入後の効果が高まります。

ポイント⑤ : 導入するAIのサポートサービスについて確認する

AIツールの導入にあたっては、サポートサービスが充実しているものを選ぶことが重要です。

導入後のトラブルやカスタマイズが必要な場合、メーカーや開発元のサポートが受けられるかどうかを事前に確認しましょう。

また、導入コストだけでなく、継続的なサポートやアップデートにかかる費用も考慮してください。

これらのポイントを意識できると、中小企業がAIを導入する際には効果的かつ効率的に活用できるようになります。

AI技術はビジネスの競争力を向上させるだけでなく、業務の効率化やコスト削減にも貢献するため、適切な導入計画や選択が重要です。

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おわりに ~中小企業こそもっとAIの力を借りてビジネスを~

最後までお読みいただきありがとうございます

今回は「中小企業とAI活用」というテーマで、中小企業のAI導入や活用がなかなか進まない理由や、AI導入のメリット・デメリット、AI導入のポイントなどについて解説をいたしました。

近年では、中小企業でも扱いやすい手頃なAI関連サービスも世の中に続々と登場してきています。

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