医療業界にもデジタル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)のニーズが高まりを見せてきています。
これまでは医師や看護師といった医療従事者の「経験や勘」といったことに頼ってきた部分が大きい医療業界ですが、IT化・デジタル化によって大きく診療業務や医療事務が変わろうとしてきています。
今回は、そうした病院やクリニックといった医療業界のデジタル化・DXについての現状や課題、メリットや、実際に活用できるツールなどを解説・ご紹介していきたいと思います。
医療DXとは何か? ~医療業界にも求められるデジタル活用~
医療分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、医療現場における情報化・デジタル化を促進する取り組みであり、診療所や病院などの医療機関、介護事業者、自治体などが医療データの共有・交換を行い、治療や予防医療の効率化・高度化を図ることを目的としています。
2023年に発行されたDX白書によると、業種別のDX取組状況では、医療分野はDXへの取り組み率が低く、課題が残る業種の一つです。しかし、近年ではAIを活用したリハビリテーションや介入プログラムの開発、仮想現実(VR)を用いた診療・治療など、様々な取り組みが進んでいます。
日本の医療業界の課題とは? ~複雑化する医療ニーズへの対応~
日本の医療業界は、DXを推進する取り組みが進められる中で、様々な課題を抱えています。以下では、少子高齢化、医療人材の不足、地域医療格差、アナログ業務脱却からの遅れについて詳しく見ていきます。
- 少子高齢化
- 医療人材の不足
- 地域による医療格差
- アナログ業務脱却からの遅れ
課題① 少子高齢化
日本は少子高齢化が進み、医療ニーズが増加しています。高齢者の増加に伴い、慢性疾患や認知症などの患者数が増加しており、医療従事者の負担が大きくなっています。
また、医療費も増加しており、財政圧迫も問題となっています。これらの課題に対して、医療費抑制策や医療機関の業務効率化が求められています。
課題② 医療人材の不足
医療人材の不足も、日本の医療業界の課題の一つです。
若者の都市部への流出や高齢者の増加により、医療現場での労働環境や待遇が改善されなければ、医療人材の確保はますます困難になるでしょう。
医療従事者の人員確保のためには、医療現場での業務負担を軽減し、労働環境の改善が必要です。
課題③ 地域による医療格差
地方における医療格差は深刻な問題となっています。
医師や看護師の不足、医療設備の整備不足、小規模な医療機関の経営難などが原因で、地域によっては医療の質が低下しています。
この課題に対して、政府は地方医療の支援策を打ち出しています。また、医療DXを進めることで、地方と都市部の医療格差を解消することも期待されています。
課題④ アナログ業務脱却からの遅れ
医療業界では、デジタル化による業務効率化が求められていますが、アナログ業務からの脱却が進んでいないという課題があります。
従来からの固定電話での患者とのやりとりや、紙ベースでのカルテの管理や院内の記録など、IT活用やデジタル化をしていく余地が非常に大きいと言えます。
電子カルテの普及率もまだまだ低く、一般診療所などでは安価で標準型の電子カルテの導入が進んでいません。
医療業界がDXやIT化を進めていくメリットは何か?
日本の医療業界がデジタルトランスフォーメーションやデジタル化を進めていくメリットは多岐にわたります。
少子高齢化や医療従事者不足、医療費抑制策、医療設備の整備不足など、医療現場には多くの課題がありますが、デジタル技術を活用することで、これらの課題に対応することができます。以下に、その具体的なメリットについて考察していきます。
- 医療事務作業の効率化
- オンライン診療の実現
- 医療ネットワークの構築
- 予防医療サービスの実現
- 患者のストレス軽減
メリット① 医療事務作業の効率化
医療現場では、受付やカルテの作成、診療報酬の請求など、多くの事務作業が必要です。
しかし、これらの作業は手作業で行われるため、人的ミスや業務負荷の増大などが起こります。
そこで、デジタル化によって、これらの作業を効率化することができます。例えば、電子カルテや在庫情報を一元管理することで、情報共有がスムーズになります。
また、近年ではAIによって診断や処方箋の作成を支援するサービスも登場しています。これらの技術を活用することで、医療現場の業務効率化が進むことが期待されます。
メリット② オンライン診療の実現
新型コロナウィルス感染症の流行をきっかけに、オンライン診療の需要が高まっています。
オンライン診療は、高齢者や障がい者、なかなか通院ができない患者にとって、医療機関への移動の負担を軽減することができます。
また、医療機関の待ち時間の削減にもつながります。デジタル技術を活用することで、オンライン診療の実現が可能になります。
例えば、ビデオ通話やチャットを活用することで、医師とのコミュニケーションをスムーズに行うことができます。このようにオンライン診療は、患者の利便性向上につながります。
メリット③ 医療ネットワークの構築
医療現場におけるDXの一つの目的は、医療ネットワークの構築です。
医療データや介入プログラムなどを連携プラットフォームを用いて共有し、患者の治療を一元的に管理することで、医師の診断精度を向上させることができます。
また、患者の健康情報を適切に共有することで、医療格差の解消にもつながります。
小規模な医療機関でもデータ共有ができるようにすることで、地方の医療現場でも高度な医療サービスを提供できるようになるでしょう。
メリット④ 予防医療サービスの実現
デジタル技術の進化により、医療分野においてもAIやVRを活用したリハビリテーションや介入プログラムが開発されています。
これらを利用することで、従来の医療では不可能だった早期発見や予防医療サービスの実現が可能になるでしょう。
例えば、VRを用いたリハビリテーションは、患者のモチベーション向上やリハビリの効果増大につながります。
また、患者の電子カルテや医療データを活用することで、疾患リスクの予測や予防にもつながるでしょう。
メリット⑤ 患者のストレス軽減
病院での患者のストレスを軽減するために、デジタル技術を活用する方法があります。
例えば、オンラインでの予約システムを導入によって待ち時間を短縮し、患者のストレスを軽減することができたり、受付での書類作成をデジタル化することで無駄な待ち時間を減らすことができます。
実際、最近では仕事や子育てなどで忙しく、病院に行く時間がない患者に向けて、「オンライン×対面のハイブリッド診療を提供するクリニック」も登場してきています。
また、検査や診察結果をデジタル化し、医療機関間での連携を強化することで、患者が再度同じ検査を受ける必要がなくなり、利便性が大きく向上します。
医療業界でデジタル技術を積極的に導入することで、患者のストレスを軽減し、効率的な業務運営を実現することができます。
デジタル化できる業務と対応するツールをご紹介
では、実際に病院やクリニックなどの医療現場で、どのような業界に対してどのようなデジタル技術を使えば業務効率化や医療の質の向上が実現できるのでしょうか?
以下に、病院やクリニックでデジタル化できる業務や活用できるツールをご紹介いたします。
電子カルテ
患者情報を電子的に管理することで、カルテの閲覧や更新がスムーズになり、医療ミスのリスクを軽減することができます。
ツールの例 | 特徴 | 費用 |
---|---|---|
Medicom-HRf | 予約/問診~会計まで170社以上の機器とシームレスに連携可能。 | 要問合せ |
m-KARTE | 診療報酬改定や制度改革にも迅速に対応する万全のサポート。 | 要問合せ |
CLINICSカルテ | 日医標準レセプトソフト「ORCA」を内包、事務作業が半分に。 | 40,000円 ~ |
オンライン受付・予約システム
患者は自宅などからネット上で受診予約ができ、待ち時間を軽減することができます。
電子カルテとも連携可能で、個人情報・問診内容をもとに自動で電子カルテが作成されるツールや、キャッシュレス決済に対応したツールも登場しており、非常に使い勝手のよいツールが増えてきています。
ツールの例 | 特徴 | 費用 |
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メディカル革命 by GMO | Webでの予約に加えて、アプリを使った予約も可能。またLINEを使った予約機能も搭載。 | 初期費用 20万円~ 月額費用 20,000円 |
ドクターキューブ | カスタマイズ性に強みがあり、順番予約・時間予約など各種予約機能が使える。 | 要問合せ |
ヨヤクル | 自動音声予約を使うことができ、高齢者などでも利用しやすい。 | 初期費用 16万円~ 月額費用 9000円~ |
在宅医療支援システム
医師や看護師が自宅などから患者の健康状態をリアルタイムで把握することができ、必要な処置を適切に行うことができます。
AIを搭載したツールが登場するなど、目覚ましい技術の発展を遂げています。
ツールの例 | 特徴 | 費用 |
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CLIUS | iPadで利用できるクラウド型電子カルテ。オーダー自動学習機能、複数カルテ同時起動、グループクリニック間での患者の診察情報共有機能などを搭載。 | 初期費用 20万円~ 月額費用 12,000円~ |
movacal.net | 在宅医療対応のクラウド型電子カルテ。60種類の医事文書の自動作成機能、インターネットFAX送信機能などを搭載。 | 初期費用 20万円~ 月額費用 50,000円~ |
homis | 在宅医療用クラウド型電子カルテ。複数のカルテの同時編集が可能なため、施設集団診療にも最適。 | 要問合せ |
リハビリテーション支援システム
患者のリハビリテーションプログラムを効率的に進めることができます。
メーカーによって最低契約台数や、PC増設時の追加コスト、介護保険への対応などが異なるため、その病院やクリニックに合ったツールを導入することが大切です。
ツールの例 | 特徴 | 費用 |
---|---|---|
リハメイト | 導入実績業界No.1のリハビリ支援システム。介護情報の管理機能を搭載しているので、訪問リハビリテーションや通所リハビリテーションの登録にも対応。 | 要問合せ |
リハプラン | 2,200種類の運動メニューから、一人一人の自宅環境や課題等に合わせたプログラムを自動的に提案する機能を搭載。 | 月額 14,800円~ |
リハサク | 治療効果、満足度向上を支援する運動療法クラウドシステム。カルテ情報をクラウド上にデジタル化してスタッフ間で共有するという運用が可能。 | 要問合せ |
在庫管理システム
医療機器や医薬品の在庫情報を一元的に管理することで、欠品やムダを減らすことができます。
在庫管理システムを選ぶ際は、「データ連携の有無」「発注のしやすさ」「管理の正確さ」などを考慮して選ぶのがポイントです。
ツールの例 | 特徴 | 費用 |
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Windy | 医療機関において在庫をスムーズに管理できる在庫管理システムで、無駄な発注を防ぐことができる。 | 要問合せ |
Icquickstock | 医薬品倉庫を中心とした在庫管理で、数量と金額を正確に把握、薬剤部門の業務効率化できる。 | 要問合せ |
スマートマットクラウド | 在庫の重さを自動検知し残量を自動記録。重さの増減検知を利用した自動発注で、在庫管理業務の無人化を実現。 | 要問合せ |
検査支援システム
血液や尿などを検査する上で、検体検査システムがあればより効率よく検体検査を実施できるようになります。
「各種システム・機器との連携有無・範囲」「サポート体制の有無・充実性」「コスト」「操作しやすい設計かどうか」などを考慮して検討するのがポイントです。
ツールの例 | 特徴 | 費用 |
---|---|---|
CLINILAN GL-3 | エラーの監視や報告異常値表示など、さまざまな情報をリアルタイムで管理でき、業務を効率化できる検体検査システム。 | 要問合せ |
OREXIA | 電子カルテシステムと連携することで検査依頼情報を取り込めるため、スムーズに検査することが可能。 | 要問合せ |
ハートレー | 検体検査業務の効率化・迅速性・安全性を考慮したシステム構成でリアルタイムで進捗を監視し、状況を一目で確認できる。 | 要問合せ |
クラウドサービス
電子カルテやレントゲンなどの画像、各種検査結果などのデータをクラウド環境で保存するケースが増えてきています。
データの共有のしやすさや、メンテナンスや機能更新が容易になる、といったメリットがあります。
ツールの例 | 特徴 | 費用 |
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MSYS医療クラウド MmedCloud | 医療情報・画像データを安全かつ低コストで管理するクラウド型インフラサービス。 | 要問合せ |
医療クラウドサービス | 富士フイルム | 撮影された胸部単純X線画像の解析や、肋骨骨折解析システムなどを搭載し、医療の質を向上。 | 要問合せ |
医療クラウド|OPTAGE for Business | 行政機関のガイドラインに準拠し、医療分野に特化した高セキュアなクラウドサービス。 | 要問合せ |
テレヘルスサービス(オンライン診療サービス)
遠隔地から医師の診療を受けることができ、医師不足の地域や高齢者の医療ニーズに対応することができます。
患者さんの通院負担の軽減や、夜間診療や医療相談など、新たな取り組みに利用可能です。
ツールの例 | 特徴 | 費用 |
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CLINICSオンライン診療 | 予約から問診、ビデオ通話、支払まで一元管理できるオンライン診療システム。事前のWeb問診、クレジットカード決済まですべてオンラインで完結 | 月額10,000円 |
curon (クロン) | 医療機関の負担は決済手数料のみとなっており、コストパフォーマンスを重視しているクリニックに最適。 | 月額・初期費用なし |
CARADA オンライン診療 | カレンダーからの予約機能、診療忘れを防止する医療施設・患者双方へのアラート、ビデオ通話など様々な機能を利用可。 | 要問合せ |
院内感染対策システム
病院内での感染リスクを軽減するためのシステムがあります。例えば、感染症の早期発見や感染リスクの高い患者の分類・管理などがあります。
ツールの例 | 特徴 | 費用 |
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SafeMaster感染管理システム | アウトブレイク表示や感染疑い患者表示機能など、早期察知と感染制御に有効な機能に加え、サーベイランス管理も可能。 | 要問合せ |
感染制御支援システム (シメックスCNA) | 院内に分散している感染管理に必要なデータを集約し、有用な情報へと変えることで、感染制御業務を最適化できる。 | 要問合せ |
ICTweb | 投薬情報、バイタル情報、転科転棟情報、治療経過等を一元管理。 院内感染対策に有用な情報を視覚的に提供。 | 要問合せ |
おわりに ~医療DXは身近な業務からスタートがベスト~
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回は、「医療DXとは何か?」というテーマで、病院やクリニックのデジタルトランスフォーメーションやデジタル化について解説をいたしました。
「デジタルトランスフォーメーション」と聞くと、何か大変な改革をしなければいけないと感じることもあるかもしれませんが、まずは院内の身近な業務や、大きな工数がかかっている業務からIT導入を検討していくと良いと思います。
病院やクリニックのIT導入やデジタル化でお悩みの際は、ぜひお気軽にエスシードにご相談ください。