近年「デジタル人材」という言葉を聞くことが多くなりましたが、ITやデジタル領域で活躍できる人材は日本全体的に少ないとされています。
そうした中で、中小企業がデジタル化を進めていく際に問題となるのが「人材不足」という点です。
ですが、本当に「デジタル人材」と呼ばれる人材が社内にいないと、中小企業のデジタル化は進まないのでしょうか?
今回は、「デジタル人材」がいない中小企業でもデジタル化を進めていく考え方や方法について解説していきます。
中小のデジタル化が進まないのは本当に人材不足が原因か?
「ITやデジタルに詳しい人材がいないから、デジタル化が進まない」というのは中小企業のデジタル化が進まない要因としてよく聞かれます。
確かに、平成31年の経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によれば、AI人材の需要と供給のギャップは2030年には12.4万人にも上るという試算が出ていたり、総務省の「情報通信白書(令和3年版)」においても、日本の企業のデジタルトランスフォーメーションが進まない理由として「人材不足」と回答した企業がダントツの1位となっていることからも、人材不足がデジタル化の推進を妨げていることは間違いないでしょう。
一方で、中小企業庁の「中小企業白書(2022年度版)」によれば、中小企業がデジタル化に取り組む際の課題は「費用対効果が分からない・測りにくい」という課題が最も多くなっており、「デジタル人材の不足」という理由が飛びぬけて多くなっているわけではありません。
もちろん、調査対象となっている企業の属性などが違っていたり、質問の仕方やデータの定義などが違うため一概に比較することはできませんが、前述の「情報通信白書(令和3年版)」において「人手不足がデジタル化の課題になっている」と回答したのは、アメリカやドイツの企業と比較して日本企業が飛びぬけていることから、企業のデジタル化は本当に「人手不足」が大きな原因なのかどうか、という点で疑問が残ります。
以下の記事でもご紹介しておりますが、「デジタル人材」と呼ばれる人材が担当する業務の領域やスキルは非常に幅が広いため、ひとりのデジタル人材が企業の中のデジタル化やデジタル関連業務をすべて担当するといったことは不可能です。
よって、「デジタル人材とはそもそも何なのか」ということを中小企業があまり理解できていないことも、デジタル化の遅れの原因になっているのではないかと思います。
中小企業のデジタル業務に最低限必要なスキルは?
とは言え、仮に「デジタル人材がいない」ということが中小企業のデジタル化を妨げる大きな要因であるとした場合、「どんなスキルを持った人材」がいればデジタル化が進むのでしょうか。
まずは、企業の業務を「デジタル」を活用して実施していく際に、必要最低限のスキルについて考えてみます。
以下のようなスキルがあれば、日常業務に対してデジタルを活用して最低限回していくことはできるでしょう。
基本的なコンピュータスキル
オペレーティングシステム(WindowsやmacOS)の基本操作、オフィスソフトウェア(Word、Excel、PowerPointなど)の使用ができること。
インターネット利用とデジタルツールによるコミュニケーション
ウェブブラウジング、検索エンジンの使い方、電子メール、チャットツール(SlackやMicrosoft Teamsなど)の利用ができること。
基本的なデザインスキル
PowerPointなどを使って、シンプルなグラフィックやプレゼンテーション資料を作成できるレベルのデザインスキルがあること。
データを扱うスキル
ExcelやGoogle Sheetsなどを使って、基本的なデータ集計やグラフ作成などができること。商品の売上や購入履歴のデータを大まかにまとめたり、傾向を把握できるスキル。
セキュリティ意識
情報セキュリティの基本知識や、安全なオンライン行動を行える意識。
迷惑メールを見極めて開かないようにすることや、安全性の低いWebサイトやWebサービスを使わないようにする判断力など。
こうしたスキルを持った人材は、この記事を読んでくださっている皆様の企業の中にも当たり前のようにいらっしゃるはずです。
専門的なスクールなどで学ぶ必要があるような技術や、長年経験を積まないとできない業務ではないはずです。
では、こうしたスキルを持った人材がいるだけでは、デジタル化は進まないのでしょうか。
結論としては、「上記のようなスキルがあるだけでは企業としてのデジタル化は進まない」ということになります。
では、何がデジタル化を進める要因になるのでしょうか。
中小企業のデジタル化を進めるために必要な資質とスキル
では、どのような資質やスキルを持った人材がいれば、企業のデジタル化は進んでいくのでしょうか。
企業のデジタル化を進めていくためには、社内に以下のような資質を持った人材がどうしても必要になります。
デジタル化を進めるリーダーシップを持った人材
企業がデジタル化を進める際には、どうしても「リーダーシップ」を持った人材が必要になります。
それが経営者なのか現場レベルの担当者なのかは企業によってまちまちですが、いずれにしても「現状を変えていく力」を持った人材が必要です。
デジタル化を推進していくリーダーには、以下のような資質が求められます。
必要な資質 | 具体例 |
---|---|
問題意識 | 自社のビジネスや普段の業務の中で、上手くいかない部分ややりづらさなどを感じ取り、そうした問題を良い方向に改善していきたいという意識 |
コミュニケーション力 | 他の従業員やチームとの円滑なコミュニケーションを通じて、デジタル化の目標や進捗状況を共有し、関係者の協力を得る能力 |
学習意欲 | デジタル技術の急速な進化に対応するため、自ら学び続ける意欲を持ち、周囲のメンバーにも学びの機会を提供できる能力 |
デジタルスキル | デジタル技術やツールに関する基本的な知識とスキルを持ち、それらを効果的に活用する方法を理解していること |
もちろん、こうした資質やスキルをすべて兼ね備えた人材が中小企業にいるかどうかというと、難しいのが現状かと思います。
ここで一番大切になるのは、「問題意識」あるいは「当事者意識」といったことが持てるかどうか、ということです。
自社のビジネスや普段の業務を言われたとおりにこなし、特に疑問や不満などを感じないような従業員ではデジタル化をリードしていくリーダーシップを発揮できません。
「みんなが同じようなやり方をする中で、ひとりだけ違うやり方をして成果を上げる人」や「1つ1つの仕事を自分なりに工夫してやろうとしている」といったような従業員はいませんか?
そうした従業員が、デジタル化を推進していくリーダーになれる可能性があります。
ぜひ、そうした従業員を見つけてみてください。
やりたいことを明確に他人に伝えることができる人材
企業がデジタル化を進める際には、上記のような「リーダーシップ」を持った人材が必要になることが第一ですが、リーダーを支えるような人材が必要です。
それは、「やりたいことを明確に他人に伝えることができる人材」です。
つまり、自分たちがやりたいことを他人にもわかるように言語化、資料化をしたり、他人にやってほしいことを明確に伝えられる能力です。
必要な資質 | 具体例 |
---|---|
要件定義力 | IT導入やデジタル化のニーズや要件を明確に定義し、それを文書化できる能力 |
コミュニケーション力 | 効果的に意見や要求を伝える能力があり、相手の意見や状況を理解するリスニング力 |
柔軟性 | 外注先の意見や提案を柔軟に受け入れ、適切な調整ができる能力 |
なぜこうした資質を持った人材が必要かというと、企業のデジタル化を進めていく際には対象となる業務の内容やフローを明確にしたり、外部のベンダーやコンサルティング会社といったような「外注」を利用する際に、自社の課題ややりたいことを明確に伝える必要があるためです。
特に、中小企業のデジタル化は、自社の社員やリソースだけですべてを賄っていくことは非常に難しいため、どうしても外部の企業の力を借りなければいけない場合がでてきます。
そうした際に、自社の課題や希望する要件などをしっかりと伝えることができなければ、自社が必要とするシステムや自社にあったカスタマイズなどが難しくなります。
こうした人材は、必ずしもITやデジタル、AIなどの先端技術に詳しい必要はありません。技術に詳しいかどうかよりも、「物事を整理する力」や「複雑なことに対する要点を絞る」といった力が必要です。
このように、中小企業がデジタル化を進めていく際には、「サーバー技術」や「Webサイト構築技術」「AI開発技術」のような、細かい技術に詳しい人材が必ずしも必要なわけではありません。
そうした細かいIT技術やデジタルの導入は、ほとんどを外部の企業に外注することができるためです。
ですが、「自社のデジタル化を推進していくこと」や「自社の課題や要件を整理する」といったことは、自社の社員が実施しなければいけない業務のため、こうした業務を任せられる社員を見つけ出す、育成する、採用する、といった努力が必要になります。
単に、ITやデジタルのことをなんでもやってくれそうな「デジタル人材」という言葉のイメージだけで企業のデジタル化を進めようとすると、上手くいかないことがご理解いただけるかと思います。
おわりに ~中小企業に最先端のデジタル人材は必要ない~
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回は、「中小企業のデジタル化に、デジタル人材は必要なのかどうか?」といったテーマで解説をいたしました。
「デジタル人材」という言葉を聞くと、最先端のITやコンピューターサイエンスなどに精通している人物を思い浮かべたりするかもしれませんが、「デジタル人材」と呼ばれている人材の中でもそうした人材は一握りです。
中小企業にとっては、そうした最先端の技術に詳しい人材などよりも、会社全体の中でリーダーシップを取れる人材や、会社の課題や要件を明確にできる人材が必要です。
もし「デジタル化にあたって、社内の誰に任せたらいいか分からない」「社内の課題や要件がうまく整理できない」といったお悩みがございましたら、ぜひお気軽にエスシードにご相談ください。